************************************** 西村ちなみメールマガジン第86号(2006年7月3日発行) 「調査は誰のために」 ※無断転用、無断転載は固くお断りします※ ************************************** みなさんこんにちは。衆議院議員の西村ちなみです。 きょうは約10日ぶりに議員会館へ来ました。新しい議員会館をつくるための仮囲い工事が始まっていて、会館付近の風景も異なって見えます。部屋に入ると机の上には1つ半まで減らしておいたはずの資料の山がまた3つに増え、倒れないように互いに支え合っていました。 議員会館は10日ぶりですが、東京へは一昨日も来ていました。情報公開や個人情報保護に取り組む団体の求めに応じて、国勢調査を見直す市民シンポジウムに出席するためです。先日、昨年の10月1日を基準日として行われた国勢調査の抽出速報集計結果が出ていましたが、皆さんご覧になりましたでしょうか。日本が、世界で最も少子高齢化が進んでいる国だとの結果が明らかになったとのことです。これは、国勢調査を行った中から1%を抽出して速報値として出したもので、全数の調査結果が出るのは先になりますが、おおむねの傾向はこれで掴むことができます。全数調査結果と1%抽出の結果とでは、これまでも大差は生じてきていません。 国勢調査には、10年に一度行われる本格国勢調査と、その間をぬって5年目に行われる簡易国勢調査とがあります。簡易といえども調査項目が多少少ないだけで、悉皆(しっかい)調査(すべての構成員に対して行われる)であることには変わりがありません。投入される公費は600億円、総務大臣から任命される調査員は全国で85万人。たいへん大規模な調査であり、統計法では、調査への申告を義務として違反したときには罰則も科しています。 ところが、オートロックマンションが増加し、プライバシーへの意識が高まるなどしたことにより、この国勢調査に大きな異変が現れるようになりました。「正確な調査ができない」のです。調査員の人たちからは、対象者を訪問しても会えない、調査票が回収できない、調査される側からは何のために調査されるのか分からない、なぜ名前を記入する必要があるのか、などの不満や不安の声が多数聞かれました。ニセ調査員を名乗って個人情報を引き出そうとする事件まで発生。民間団体や自治体などが設置した相談ホットラインでは、電話が鳴りやまなかったそうです。 今、有識者懇談会において国勢調査のあり方が検討されており、インターネットや郵送などを活用した調査方法に変えることが提案されていますが、根本的な解決にはなっていません。何のための国勢調査なのか、その結果はどのように反映されているのか、それらが全く不透明なままであることが問題なのです。先ほど私は、1%抽出の速報値と全数分析の結果とでは大差は生じていない、と書きました。人口は正確に把握する必要があると思いますが、傾向を知るのであればそもそも悉皆で行う必要はなく、最初から1%抽出で調査すれば済む話だと思うのです。また人口の把握も、住民基本台帳や外国人登録など既にある別の統計をもって活用できるのであれば、改めて行う必要があるとは考えにくいところです。 先の通常国会での住民基本台帳法改正案の審議を通じて、私は、「情報は誰のものか」ということを考えました。個人情報は、その持ち主のものであり、その持ち主のために使われなければなりません。しかし、その個人情報を預かっている行政側では、「個人情報は行政内部で扱うものであり、外には出さないもの」という不思議な反応が見られます。新潟でも地震発生時に、障害者支援のノウハウをもつNPOが行政の窓口で要援護者の所在地を知りたいと申し出たところ、個人情報だとして提供を拒否されたということがありました。何のために行うのか不透明なまま国勢調査への協力を求められること、そして行政がもっている情報は活かされていないということ。相反する事柄が起こっている、とても奇妙な状況だと思います。 情報は、民主主義社会においてはその根幹をなすものなのですが、この国ではまだ、その扱いをめぐって論議をもっと深めていかなければなりません。2010年の本格国勢調査のときに、また同じ失敗をしてしまった、と言わないようにするためにも。