************************************** 西村ちなみメールマガジン第30号(2005年5月30日発行) 「国民保護?」 ※無断転用、無断転載は固くお断りします※ ************************************** みなさんこんにちは。衆議院議員の西村智奈美です。 最近、上越新幹線にお乗りになった方はご存知と思いますが、現在、新幹線車両の中のゴミ箱は口に白いテープが貼られ、使用できなくなっています。また車内では「JR東日本では、警察のご指導をいただき、車内の警戒を強化しております・・・」などとアナウンスが流されます。テロ対策として、新幹線のゴミ箱が閉鎖されてしまったのです。 乗客は、車内のゴミ箱が閉鎖されているので、駅弁の空箱などのゴミは、持って降りることが求められています。持って降りると、ホームに清掃の方がゴミ袋を広げてもっていて、そこに入れるか、さいきん設置された透明なゴミ箱に入れるかします。ゴミをもって降りるのが面倒な人は座席においていくようです。 ゴミ箱にも放置できないほど危険なゴミを、清掃員の方が手に持っているビニール袋に入れることは、危険ではないのでしょうか。またゴミそのものが危険であれば、それがゴミ箱にあろうが網棚の上にあろうが、同じことなのではないでしょうか。私は疑問に思っていました。 ある同僚議員が、この上越新幹線のゴミ箱について衆議院安全保障委員会で質問していました。上越新幹線、東北新幹線など、JR東日本管内の新幹線ではゴミ箱は閉鎖されているのですが、JR東海管内の東海道新幹線ではゴミ箱は使用しているということなのです。この理由について同僚議員が質問したところ、「東北、上越は乗車時間が短いから」という「あくまでもJR側の自主的な判断と管理の内容」にゆだねているということでした。どうやら乗車時間に反比例して車内ゴミの危険が高まるという理屈のようです。 さて、日本では現在、ちょうど約一年前の2004年5月20日に成立した、いわゆる「有事関連7法」により、各地方自治体に義務付けられた国民保護計画の策定作業が進められています。このための諮問機関として協議会を設置するための条例案と、対策本部を設置するための条例案の二案が、新潟県でも6月県議会に提案される予定と聞いていますが、新潟県は中越地震のため作業が遅れ、全国でも協議会が未設置の2県のうちのひとつとなりました。政府は、都道府県に対して2005年度中に、市区町村に対しては2006年度中に、国民保護計画の策定を求めています。 2004年の「有事関連7法」に先立って2003年の通常国会では、「有事関連3法」が成立していました。この3法では、有事における政府の対応を定めると同時に、自衛隊が「円滑に」活動できるようにし、そのための自治体の責務や国民の協力が盛り込まれました。基本的人権が侵されかねないという懸念が各方面から表明されていたのは記憶にも新しいところです。また昨年の有事関連7法により米軍が「円滑に」活動できるようにもなりました。それら有事に対応する国や自治体や公共機関などの役割は、武力攻撃事態対処法(2003年3法)そして国民保護法(2004年7法)に定められています。 有事法制の制定にあたっては、概念などをめぐって細かな議論が行われてきました。民主党も、昨年の有事関連7法の審議の際には、対立法案とはしない、という現場サイドの判断により、与党との修正協議も行ったところです。 しかし、もし仮に有事となったとき、これらの法律は実質的に国民の保護のためにどれほど機能することができるのでしょうか。JRの対応に見ることができるように、日本のテロ対策とは「やった」というアリバイづくりにとどまっています。また村上龍氏の最新作『半島を出よ』で鋭く指摘されているとおり、ケースに応じて避難指示などを誰がどのように出すかなどについての具体的な記述は国民保護法にはなく、ゆえに省庁縦割りになっていることの弊害が出るのではないかと懸念されます。つまり、法律ができても、きちんとそれを動かすことのできるだけのシステムに日本全体がなっていない。絵に描いた餅に終わる危険性があるにもかかわらず、法律だけができてしまった。こういうことではないかと思います。 それではいったい何のための有事立法だったのでしょうか。「有事に備え、国民の生命と財産を守る」とは、推進派政治家の常套句でした。本当に国民の保護を立法の目的として掲げるならば、取り組む順序が異なってしかるべきです。しかし実際には、基本的人権の保護のための立法は、順序が後回しになってきました。嬉々として有事法制3法、7法の制定に取り組んできた人たちの狙いはもっと別のところにあったのではないでしょうか。端的に言えば「戦争ができる国にする」ことが、本当の狙いだったのではないでしょうか・・・ これから各自治体で策定される国民保護計画が、少しでも現実にそくしたものとなるよう、民主党としても提言を行っていけたらと、今は自戒をこめて考えています。