●西村(智)委員 立憲民主党・無所属フォーラムの西村智奈美です。
旧優生保護法は、昭和23年に戦後初の議員立法として成立し、優生思想のもと、不良な子孫を出生することを防止するとともに、母性の生命、健康を保護することを目的として、優生手術や人工妊娠中絶等について規定していました。
平成8年に、優生保護法を母体保護法に議員立法で改正し、遺伝性精神疾患等を理由とした優生手術や人工妊娠中絶に関する規定を削除しました。この間、実に約半世紀もの間、我が国では優生思想に基づく強制的不妊手術が法定化されていたことになります。
関係団体が長く取り組んできた課題でありましたが、2018年1月30日、旧優生保護法下の強制不妊手術に対する初めての国賠請求訴訟が仙台地裁に提訴されたことをきっかけに、悲惨な実態を明らかにするよう求める声が高まりました。
旧優生保護法は戦後初の議員立法として制定されたという経緯から、優生思想を乗り越えるために超党派で議員連盟を立ち上げて、まずは実態把握から始めようということで、2018年3月5日に、優生保護法下における強制不妊手術を考える議員連盟が設立されました。
本人の同意によらない不妊手術は約1万6500件、同意のあるもののうち、遺伝性疾患等を理由とするものを含めれば約2万5000人とされます。本人の同意によらないものは、都道府県に設置された優生保護審査会で審査、決定を行うとされていましたが、審査会を経ずに行われたケースも多数あるとの指摘があります。いずれにしても、実態はまだほとんど明らかになっていません。
本人の同意があったとしても、それは真の同意だったのでしょうか。また、厳正な手続を経ずに、素行不良などという極めて主観的な理由や、身寄りのないこと、貧困などを理由に行われた手術、福祉施設などに入居する条件として行われた手術や結婚の条件として行われた手術など、根拠法すら存在しない手術が多数行われていたとの指摘もあります。法に規定されていない術式、コバルト照射が行われていたという指摘もあります。最年少は、9歳の子供に対しても手術が行われました。余りにもむごいと言わなければなりません。
手術後に痛みや体調不良が継続する方は少なくなかったでありましょう。しかし、差別意識が根深く残る中、周囲にも家族にも告げることができず、ずっと胸にしまっておくしかなかった方々も相当数おられるはずです。
法が、個人の尊厳や性と生殖の権利を踏みにじり、社会のモラルまで大きくゆがめてきました。そして、これらのことは、紛れもなく、厚生省から発出された法施行のための多数の通知と事務連絡、地方自治体からの疑義照会によって促進されてきました。
強制的不妊手術を当たり前とする社会的風潮を生み出した責任は、法律を制定した立法府と、法を促進してきた、履行してきた行政府にあると私は考えます。現在の立法府の一員として、このことを深く胸に刻んでいかなくてはならないと思っています。
同時に、このような重大な人権侵害、非人道的行為が現在も行われていないか、私たちは注意深く見ていく必要があります。また、後世に向けて、二度とこのような優生思想による非人道的な行為が繰り返されることのないよう、しっかりと検証を行うことが必要と考えます。
議員連盟の活動として、勉強会と並行し、厚生労働省に実態調査を求めてまいりました。議員連盟の活動の経緯は、私がきょう添付しております資料の5と6に記載をされております。
2018年5月24日に立法措置を検討する法案作成PTを立ち上げ、議員連盟の勉強会10回、法案作成PTの会合10回、これらを開催する中で、弁護団、被害当事者の方々、有識者の方々、優生手術に対する謝罪を求める会、日本障害者協議会、DPI日本会議、DPI女性障害者ネットワーク、全日本ろうあ連盟、そして自治体議員、国会図書館などからのお話を伺いながら法案を取りまとめ、同じく旧優生保護法への対応を検討してきた与党ワーキングチームと調整を行い、既に御高齢の方々に迅速な対応ができるよう法案作成をしてきたところです。
御協力くださった関係者の方々に深く敬意と感謝をあらわします。本当にありがとうございました。
法案の内容について、法案作成PTにかかわってきた立場から、法案作成に当たって留意してきた点を申し述べたいと思います。
第一に、前文です。
「我々」は、既にありましたとおり、主として国と国会を指すものであります。同時に、法案の対象者を旧優生保護法に基づく手術を受けた方以外の方々までも広げたいという考えがあり、このような書き方となりました。
第二に、対象者です。
法施行当時の社会状況を考えれば、法に基づく優生手術を受けた者とするだけでは不十分であると考えました。そこで、対象者を広げるため、法が存在した間に優生手術を受けた者、また法施行期間中に生殖を不能にする手術等を受けた者、これは母体保護のみを理由とする手術を受けたことが明らかな者などを除くということにしておりますが、法施行日、すなわち法が成立する日に生存されている方を対象といたします。
第三に、権利請求、認定審査のあり方です。
一日も早く権利申請ができるようにしたい、負担感なく請求ができ、適正かつ速やかに認定審査が行われるようにしたいと考えてまいりました。厚生労働大臣が認定を行いますが、独立し有識者で構成する認定審査会が判断したら、自動的に厚労大臣によって認定される形です。
また、厚労省の調査により、手術を受けた方のうち、最大で約5400人の方のお名前等が特定できる可能性があることがわかりました。できるだけ速やかに、かつ請求される方の御負担にならないように、厚労省が収集した資料によって請求者が手術を受けたことが明らかな場合は、認定審査会の審査によらず認定します。
また、請求者に係る優生手術等の実施に関する記録が残っていない場合も多いと考えられること、旧優生保護法に基づかない形で生殖を不能にする手術等を受けた方も法案による対象としていることから、請求者の陳述、医師の診断、診療記録等を総合的に勘案して、適切に判断することにします。
具体的な判断に当たっては、記録や資料が存在しなくとも、請求者等の陳述の内容が、当時の社会状況や請求者が置かれていた状況、収集した資料等から考えて、明らかに不合理でなく、一応確からしいことを基準といたします。これは、添付しております資料の8に記載されているとおりです。
第四に、対象者ができる限り負担なく早期に請求できるよう、手続の支援や相談、障害の特性に配慮した体制の整備などを図ります。
第五に、調査、検証です。
なぜこのような悲惨な人権侵害が起きてしまったのか、その背景や経緯をしっかりと調査し、後世に残して、二度とこのような悲惨なことが繰り返されないよう、国会が責任を持って調査その他の措置を実施することといたしました。これは、資料の9にありますとおりです。
与党ワーキングチームとも、この点については、旧優生保護法が議員立法により成立した経緯等に鑑み、法案に規定する調査については、その主体は国会とする方向とし、具体的な対応については調査の内容も含め今後引き続き議論するということで合意いたしております。
国会は、引き続き、今後も調査という点で大変重い責任を負っておりますので、これを果たしていかなければならないと考えております。
第六に、法の趣旨や内容について、対象者への周知とともに、国民全体への周知をしっかりと行うことによって、対象となる方が早期に負担感なく請求権を行使できる環境を整えたいと考えております。
最後に、一時金の金額です。
おわびの気持ちを金額にするのは大変難しく、また、さまざまな御意見もあるところと承知をしておりますが、スウェーデンの例を参考にし、320万円とさせていただきました。
以上であります。
立憲民主党・無所属フォーラムとしては、法案審査に際し、弁護団からも改めてヒアリングを行い、賛成を確認いたしました。
さてそこで、厚生労働省に質問をさせていただきたいと思います。
先ほど申し述べましたとおり、厚生省が発出した通知及び事務連絡等は、私は強制的不妊手術を促進したと考えております。報道等で明らかになった通知の中で、実は、厚生労働省が把握していない、ホームページに掲載をしていないものがかなりあります。資料7に、報道等で把握された旧厚生省からの自治体への通知等の一覧がございますけれども、この中で、資料の1、すなわちこれは厚生労働省の現在のホームページにも出ておりますが、厚生省から自治体へ発出された通知及び事務連絡で、ここに記載されていないものがあります。
発出者が発出した文書を保存していない。公文書の管理のあり方としては大変大きな問題がありますが、それは今の議題ではないとしても、今後、いわゆる国会が行う調査を行っていくに当たって、やはりこのような通知ないしは事務連絡等の資料は網羅的に収集していく必要があると考えております。
現在厚労省の手元にないものであっても、都道府県等から取り寄せていわゆる調査の資料に資するべきだというふうに考えますが、いかがでしょうか。また、疑義照会の文書についても同様とすべきではないかと思っております。いかがでしょうか。
●浜谷政府参考人 お答えいたします。
今回の法案の成立後に国会が主体となりまして実施される優生手術等に関する調査につきましては、旧優生保護法は旧厚生省が所管、執行していたことからも、厚生労働省といたしましてできる限りの協力をしていく必要があるというふうに考えております。
委員から御指摘がありました、現在厚生労働省が保有していない過去の通知等につきましては、昨年行いました調査の結果、基本的に特定の都道府県におきまして保有していることまでは確認できております。今後、国会による調査が行われまして、必要が生じた場合には、都道府県から提供していただくなど最大限の協力をしてまいりたいというふうに考えております。
●西村(智)委員 よろしくお願いいたします。
二番目の質問ですけれども、やはり、今回の法案が成立いたしましたときに、この内容、情報が当事者の方にきちんと届けられるということが極めて大切だと思っております。
法案作成にかかわった者の立場、私たちの意思としては、例えば障害者手帳の更新などの行政手続の機会を利用したきめ細やかな案内、つまり、障害者手帳の更新のときに小さな紙を挟むとか、相談支援窓口の設置、それからポスターあるいはパンフレットを作成する、医療機関、障害者支援施設等を通じての呼びかけ等々いろいろ考えられるわけですけれども、このように丁寧に細かく周知することはもとより、この法案の趣旨を広く国民に丁寧に周知すべきであるというふうに考えます。つまり、それは、差別意識を助長することが万が一にもないよう行うべきだというふうに考えるところだからでございます。
また、国会が行う調査の報告がなされた後にも、周知のあり方について不断に検討していくべきだというふうに考えますが、この点、大臣、お考えはいかがでしょうか。
●根本国務大臣 今、西村委員からいろいろと御指摘がありました。
我々、法案の趣旨を踏まえて、委員お話しのように、今回の法案の趣旨や内容について広く国民に周知を図り、丁寧にというお話もありました、周知を図って御理解いただくよう努めることが大変重要だと考えておりまして、この周知についてしっかりと取り組んでまいりたいと考えています。
●西村(智)委員 最後の質問になります。
昨年、厚生労働省は、超党派議員連盟と与党ワーキングチームの要請により、都道府県、市町村、特別区、厚労省内部と関連施設、各医療機関、福祉施設が保有する優生手術についての資料や記録について調査をいたしました。しかし、これは任意の調査であったため、結果としては、とても完全というものとはほど遠い結果だったと受けとめております。
他方、手をつなぐ育成会や全日本ろうあ連盟などでも、独自にヒアリング等々の調査を行っておられます。私たちが把握していないほかの団体も、独自の調査を行っておられるかもしれません。今後、国会が具体的に調査を行っていく過程において、そういった団体の調査結果から情報として得られるものも恐らくはあるのではないか、このように考えております。
そういった得られた情報から個別のケースが出てきた場合に、それについて確認したいということも具体的な調査の過程では十分にあり得る、考えられることだと思いますが、そのようなとき、国会から厚生労働省の協力を求められた場合、厚生労働省として協力する用意があるかどうか伺いたいと思います。
また、法案では、認定審査会は、市町村、医療機関、福祉施設に記録の調査等を行って報告を求めることができる、こういう認定のプロセスの仕組みになっております。そこで得られた情報もとても貴重な情報ではなかろうかというふうに思いますので、これを当然個人等が特定できないような形で国会の行う調査に活用させたらいかがかというふうに思いますが、これについて厚生労働大臣の見解を伺います。
●根本国務大臣 今委員がお話しになられました、国会において実施される優生手術等に関する調査については、円滑な実施に向けて、厚生労働省としてもできる限りの協力を行っていきたいと思います。
また、委員から御指摘のあった、法律施行後に行われる一時金の請求に関する資料の提供については、請求者の個人情報保護との関係を整理し、どのような形で提供が可能か検討していきたいと思います。
また、国会が調査を行うに際して、個別のケースに関し医療機関など関係機関に協力いただく必要がある場合には、厚生労働省としても、協力の要請や必要な調整を行うなど、可能な限り努力していきたいと考えています。
●西村(智)委員 ぜひよろしくお願いいたします。
今回、旧優生保護法に対応する法案を作成するということで、私自身、非常に責任の重いことを、その一部を担わせていただきました。大変な歴史的な事実であるということを我々は本当に重く受けとめなければなりませんし、また今後二度とこのようなことがないようにしていく必要もあります。
立法府として今の時点でできることに最大限取り組んだ結果として、今回、法案を委員長提案という形で起草していただく運びになります。ぜひ一日も早く成立をさせて、お一人でも多くの方が立法府の思いを受け取っていただけるようにと心から願って、私の質問を終わります。
ありがとうございました。