■稲田朋美委員
西村政務官にお伺いをいたします。
このサンフランシスコ平和条約14条によってどの程度賠償がされたのか、そしてそれで十分だと考えているのか。また、最高裁が示した、サンフランシスコ平和条約もしくは日中共同声明によって国同士の賠償責任が確定すれば個人の賠償は請求すべきでないという考え方について、御意見をお伺いいたします。
■西村智奈美外務大臣政務官
最高裁の判決については、それはそれとして、外務大臣政務官として申し上げるべき立場にはないと存じますが、請求権の問題でございます。
サンフランシスコ平和条約14条と日華平和条約の関係からまず申し上げますと、日華平和条約第11条及びサンフランシスコ平和条約第14条(b)により、中国及びその国民の日本国及びその国民に対する請求権は放棄されております。1972年の日中共同声明第5項に言うところの戦争賠償の請求は、中国及びその国民の日本国及びその国民に対する請求権を含むものとして、中華人民共和国政府がその放棄を宣言したものでございます。
したがって、さきの大戦に係る日中間における請求権の問題につきましては、個人の請求権の問題も含めて、1972年の日中共同声明発出後、存在しておらず、このような認識は中国側も同様であるというふうに認識をしております。
■稲田委員
次に、従軍慰安婦の問題についてお伺いをいたします。
戦後補償裁判でもこの慰安婦の問題は取り上げられておりまして、国が全く事実関係を争っていないがために、大変不当なことが判決の中に書き込まれております。
例えば、ある判決では、「日本軍構成員らによって、駐屯地近くに住む中国人女性(少女を含む。)を強制的に拉致・連行して強姦し、監禁状態にして連日強姦を繰り返す行為、いわゆる慰安婦状態にする事件があった。」ということが事実として書き込まれております。また、ある事件におきましては、「警察官によって、ささいなことを咎められて警察署に連行されて、拷問され、福岡と聞いている地に連れて行かれ、毎日何十人もの軍人に性行為を強要された。約2年後、神戸、大阪と聞いている地の各慰安所に移動した。慰安所で梅毒に罹患させられ子どもの産めない身体になった。」これも、国が全く事実関係の認否もせず、争いもしないがために、真実として判決書に書かれております。
その結果、米国下院において、平成19年7月30日に決議された慰安婦非難決議があります。きょう、資料で、ホンダ・アメリカ下院議員提案の決議ということで和訳をつけておりますけれども、ここに書かれた事実関係について日本政府としてどのような反論をしたのか、外務省にお伺いをいたします。
■西村大臣政務官
御質問でありますけれども、基本的な立場から申し上げますと、慰安婦問題についての政府の基本的な立場は、平成5年8月4日の河野官房長官談話のとおりでございます。
また、米国の下院における本件決議でありますけれども、こうした慰安婦問題についての日本政府の基本的な立場や、また真摯な対応、そういったものを踏まえていないものと考えられましたことから、米国側関係者の理解が得られるように、我が国の関係者から働きかけ、説明を行ったところでございます。
■稲田委員
この中に書かれている事実関係について、それが事実かどうかについての反論をされたかどうかについてお伺いをしたいと思います。
例えば、「日本国政府による強制的軍売春である「慰安婦」制度は、その残忍さと規模において、輪姦、強制的中絶、屈辱的行為、性的暴力が含まれるかつて例のないものであり、身体の損傷、死亡、結果としての自殺を伴う20世紀最大の人身売買事案の一つであった」というようなことが書かれておりますが、これを真実ではないという反論をされたかどうか、外務政務官にお伺いをいたします。
■西村大臣政務官
重ねてでございますが、慰安婦問題についての政府の立場は、平成5年8月4日の河野官房長官談話のとおりでありまして、現政権においてもこれを受け継いでおります。
具体的にどういう反論をどの項目に対してしたかということでございますけれども、これも重ねてになりますが、こうした我が国の基本的な立場や真摯な対応を踏まえていないものだというふうに考えましたので、その点について理解が得られるように働きかけを行ったということでございます。それで御理解をいただければと思います。
■稲田委員
当時、日本の慰安婦非難決議が出されようとしていた同じ時期に、同じ米国下院に、90年前のアルメニア人虐殺について、トルコを非難する決議案が出されようとしました。これに対してトルコは猛反発をして、そして、仮にこのような決議が採択されることがあれば、政府としても自国内のインジルリク基地などの米軍による使用を禁止あるいは制限すると警告をして、自分の国の名誉を守るために、自分の国の安全保障をかけてまで抗議をしたんです。
私は、これは正しい政府のあり方だと思いますけれども、このトルコの決議は最終的にどうなったのか、西村政務官にお伺いをいたします。
■西村大臣政務官
トルコの件、すなわち米国議会でのアルメニア人虐殺に関する決議案でありますけれども、2007年10月10日、米下院外交委員会において、比較的僅差だったようでございますが、賛成多数で採択をされましたが、その後、下院の本会議においては議論されなかったと承知をしております。
ことしの3月4日に、再び米下院外交委員会においてアルメニア人虐殺に関する決議案が可決されましたけれども、現時点においては、米下院本会議に上程されていないと承知をいたしております。
■稲田委員
トルコの場合は、自国の安全保障までかけて名誉を守る、そういった活動をしたがために、本会議ではもう議論もされず、流れてしまっているんです。それに反して、日本は、河野談話に書かれているとおりですとか、「最大の人身売買事案」だとまで書かれているにもかかわらず、事実を反論しないことによってこれが決議されてしまう。この違いをぜひ認識をいただきたいと思います。
また、この下院決議の後、同じような決議がほかの国でもされています。
オランダの決議が2007年11月20日に行われていますけれども、その決議の中で、11月7日、日本の衆議院議長が、ワシントン・ポスト紙の広告について6月26日に下院議長が送った書簡に対する返答として送付した書面、並びにその書面において、当該広告に同議長が同調していないことを承知しているということがオランダの決議の中に書かれているわけです。
ワシントン・ポスト紙の、すぎやまこういちさんが私財を2千万投じて日本の国の名誉を守るために意見広告をしたことについて、衆議院議長が、それには同調していないんだという手紙をオランダの下院議長に送った、この事実を外務省は承知をされているでしょうか。
■西村大臣政務官
お尋ねのメッセージの件でございますけれども、オランダ下院のフェルベート下院議長から河野衆議院議長にあてられた書簡に対する返答として、河野衆議院議長からフェルベート下院議長にあてて送ったものであると承知いたしております。
その中身につきましてですが、すべてここで申し上げるのもなんですけれども、そういった、あてて送った書簡であるということは承知をいたしております。
■稲田委員
次に、毒ガス訴訟についてお伺いをいたします。
毒ガス訴訟、先ほど私も言いましたように、一審では全く事実関係を争っていなかった。ところが、国側は、第一次、第二次の毒ガス訴訟について、控訴審に行って初めて事実関係を争い出されたわけです。これに対して、原告側は、時期におくれた主張であるから却下すべきだという主張までされているわけですけれども、なぜ一審で事実関係を争わず、控訴審になって初めて事実関係を争われたのか、その点についてお伺いをいたします。
■千葉国務大臣
毒ガス訴訟につきましては、今御指摘がありましたように、先行訴訟の一審判決において、国賠法施行後の化学兵器の放置行為に国賠法の適用が認められて敗訴をしたということでございます。
この事案については、こういう国賠法施行後の放置行為という形で判決が出されているということでございますので、念のために、必要な範囲で事実関係に関する主張、立証をしているということでございます。
主張の内容は、控訴審において、毒ガス兵器等は旧日本軍が遺棄したものではない、被害発生について結果回避可能性がないという主張をさせていただいていると承知しております。
■稲田委員
控訴審に入ってから、国側が、この遺棄化学兵器が日本側のものではない、仮に日本軍のものだとしても、これは武装解除によってソ連に引き渡されて、毒ガス兵器の遺棄はソ連軍によるものであるという主張をきちんとされたことは、私は正しいと思うんです。
ただ、正しいけれども、何で一審でこの事実を主張しなかったのか。一審で一つ裁判に負けていますから、それで慌てたのかもしれませんけれども、やはり事実関係について判断されるような事案については、きちんと一審から事実関係を争っていただきたいと思います。
この一次、二次訴訟の後に三次訴訟も起きております。チチハル市で事故が起きて、そして、これに対しては、日本政府が中国政府に賠償金3億円、一人当たり330万円が支払われているということが朝日新聞の報道に書かれております。
外務省にお伺いをいたしますが、このチチハル市の事件にはどうして3億円をお払いになったのか。また、その3億円の根拠はどこにあるのか。また、一人当たり550万円支払われているということでありますけれども、この550万円という金額が中国においてどの程度の価値があるものかを示すために、中国の都市部と農村部の平均年収は日本円にして幾らかについてお伺いをいたします。
■西村大臣政務官
2003年のチチハルにおける遺棄化学兵器による事故との関連で、我が国は、遺棄化学兵器処理事業に係る経費といたしまして3億円を中国政府に対して支払うこと、また、中国はこの費用について、中国政府の責任において関係諸方面に適切に配分することを文書において表明をいたしました。
確認のため申し上げますと、この支払いは、あくまで本件事件との関連で遺棄化学兵器の処理事業に係る費用として支払われたものでありまして、さきの大戦の請求権に関する補償ないしその代替措置との位置づけではございません。
そこで、3億円でございますけれども、外務省の支出した経費は1億5000万円です。それは、チチハル市における遺棄化学兵器の現地調査に対する中国側協力に係る実費を支払うものでございました。内閣府の支出した経費は1億5000万円でございます。遺棄化学兵器処理事業の一環として、同事業の遂行に欠かすことのできない医療体制確立事業の実施に当たり、医療データの提供など中国側の協力に対する実費を支払うものと承知をしております。
そして、この経費に関連して、平均550万円配分されたということについての報道に関してでございますけれども、本件との関係で我が国が支払った経費は、あくまでも遺棄化学兵器処理事業に係る経費として中国政府に対して支払ったものであり、また、中国はこの経費について、中国政府の責任において関係諸方面に適切に配分する旨、文書において表明をしております。その上で、おのおのの被害者に幾らの金額が配分されたかについて、我が国としてはお答えする立場にはございません。