■西村智奈美委員
民主党の西村智奈美です。
前回質問させていただいたときに、免許の更新制について伺うつもりでおりましたが、時間切れになってしまいました。きょうは、その免許更新制についてから伺っていきたいと思います。
学校現場に多くの問題、課題があるということは私も承知をしておりますけれども、これまでも免許の更新制は大変多くの時間を使って議論されてきましたが、改めて考えますのは、学校現場の課題や問題点を改善する、そのための方策として第一に免許の更新制の導入が発案されたところに私はいささか違和感を覚えるところでございます。
実際に、私も地域で保護者の皆さんや子供さんたちにいろいろ話を聞くことがあります。中にはやはり、少し、こういった先生からは担任に持たれたくないというような声も一部聞かれますけれども、実際に多くの子供たち、そしてまた保護者の皆さんが望んでいるのは、むしろ学校の先生なりと向き合う時間をたくさん欲しいということではないかと思っておるんです。
ですので、この免許の更新制というのは、多くの子供や保護者の皆さんのそういった思いからいたしますと、本当に急いで導入すべきことなのかというふうに考えます。この制度の導入については、しっかりとした実証的な検証、そしてまた議論が必要だというふうに考えております。
先日、参考人の方から、この委員室にお越しいただいて、この免許の更新制についていろいろ御意見を開陳していただきました。大変興味深い御意見もいろいろありましたけれども、現場の先生方が非常に忙しくて、また、ここのところ、いわゆる教育改革が矢継ぎ早に進んでいっているために現場の先生がついていけない、そういう声があったと承知をしております。参考人の方も紹介されておられましたけれども、約85%の小中学校において、教育改革が余りに速過ぎるので現場がついていけないと感じている、こういうふうな紹介もありました。
実際に、教育現場の改革というのは、ほかでもない、現場を担当する人たちの実践によってその成否というのが左右されるわけでありますから、現場の納得を得ながら進めていくことが、これが肝要だというふうに思っておりますけれども、この点についていかがお考えでしょうか。
■銭谷眞美政府参考人(文部科学省初等中等教育局長)
まず免許更新制でございますけれども、このねらいは、教員が最新の専門知識や指導技術を身につけるとともに、自信と誇りを持って教壇に立って、社会の尊敬と信頼を得ていくために重要な意義を持つ制度としていきたいというふうに思っているところでございます。
ただいま、現場の先生方は大変お忙しい、それから、子供と向き合う時間がもっと欲しいといったことにこたえられているのか、それからさらに、現場の先生方のいわば改革が速過ぎるといったようなことにどうこたえていくのかというお尋ねがございました。
私ども、現在、現場におられる先生方が、やはり、勤務時間について見てみますと、子供と直接的にかかわる時間のほかに、学校の運営にかかわる業務、あるいは調査の、あるいは報告書の整理といった時間がかなり多いということは、私どもが行いました教員の勤務実態調査でも把握をいたしております。
そういった問題については、私ども、今後、児童生徒の指導に先生方が直接かかわる時間が持てるように、副校長、主幹教諭、指導教諭といった、組織としての学校の力を充実させる施策でございますとか、あるいは業務のアウトソーシング、あるいはボランティアの方の御協力を得ることとか、さらには定員の問題についても今後よく考えて、できるだけ先生方が子供と向き合えるようにしていくということは必要なことだと思っております。
また、改革につきましては、免許更新制も含めまして、積極的に学校の先生方にその趣旨をお伝えし、十分に御理解をいただいて実施できるように工夫をしていきたいというふうに思っているところでございます。
■西村(智)委員
いろいろなアンケートも、学校現場それからその周辺の団体などでは行われているようであります。教職員の方の大体九割が子供たちともっと一緒に過ごす時間が欲しいと感じている。また、子供たちの方でも、これは何年か前のテレビ番組の意識調査でありましたけれども、理想の先生ってどういう先生ですかとアンケートをとりますと、多くの子供たちは、しっかりとコミュニケーションをして子供たちの心が理解できる先生であるというふうに答えております。保護者の方にとっても同じような傾向はあらわれているわけですね。
ところが、実際は、局長今御答弁あったように、大変学校の先生は忙しいし、そしてまた、これまでにも意見開陳がありましたけれども、非常に健康状態に不調を訴える先生方が多いというふうに伺っております。全職業で平均される健康状態で不調を訴える方々の、およそその3倍ぐらいが教職員の比率であるというふうに言われておりまして、この3倍というのは極めて高い数値だというふうに思うんですね。
こういった状況の中で、本当に免許更新制度によって、保護者や地域の方々そして子供たちが望んでいるいわゆる学校の先生というものに近づいていけるのかどうか、本当にこの制度で近づいていけるのかどうかということについて、改めてもう1回伺いたいと思いますけれども、これについてはいかがでしょうか。
■伊吹文明文部科学大臣
学校現場が非常に忙しくて児童生徒に向き合う時間が少ないということは、先生がおっしゃるとおりだと思います、現実としては。ですから、再三ここで御答弁申し上げているように、忙しさを、アウトソーシングして外へ出して、お金をつけて外へ出すか、ボランティアの方をお願いして、少しお金をつけて中へ人を入れてくるか、そうでなければ正攻法で、行革の法案を改正して予算を大幅にふやして人員増をするか、3つの方法があると思います。
それはそれで私は努力をしたいと思いますが、同時に、これは各新聞社それから通信社がやった世論調査を見て、私は、私の思っていた以上に免許の更新制について賛成という意見が多かったと記憶しています。
ですから、やはりしっかりした先生に児童生徒に向き合って教えてもらいたいということを御父兄は当然考えておられるんだと思いますから、そのようにやりたいと思いますし、10年間に30時間という時間をとっちゃうと児童生徒に向き合えない、時間がそれだけとられちゃうからという御質問は、むしろ10年間に100時間の研修をとっておられる御党の提案者にもひとつぜひ聞いていただきたいと思います。
■西村(智)委員
我が党の案は、今行われている10年研修を再編するというだけですから、今行われている10年研修に新たにつけ加えるというものではありません。ですので、どちらがより多くの時間数そして負担がかかるかといえば、それは明白であろうと私は考えております。
それで、先ほど伊吹大臣は、免許の更新制の導入に当たっては、想像していたよりも賛成する人が多かったようである、意識調査でそのような印象だったというふうに述べられました。
これは主観ですから、受けとめですから、私がそれについて、いや、それは思ったより少なかったでしょうと言っても始まらないわけでありますけれども、私が改めて申し上げたいのは、つまりは、この免許更新制というのは、その主体となるのが現場におられる学校の教職員、教員であります。そういった現場が納得して、そして動く仕組みでないと、これは制度をつくったはいいけれども、実際にその中身がうまく機能しないおそれがあるのではないか、こういうふうに考えているわけなんです。
また、負担がふえるということも、それは御懸念には及ばないというふうに言われましたけれども、実際に10年研修に加えて新たに更新研修が行われるということになりますと、授業などでやはり穴のあくおそれというのはあるのではないかというふうに考えております。これについてはどのようにお考えになっていますか。
■銭谷参考人
まず、免許更新制によります免許更新講習について御説明を申し上げますと、改正免許法の第九条の2第3項の規定によりまして、免許更新講習は、免許状を授与されてから9年目から10年目までの間に30時間受講していただくというものでございます。
一方、10年経験者研修は、教育公務員特例法第24条第1項の規定によりまして、公立学校の教員に正式採用された後の、在職期間が10年を過ぎた後に受講していただくというものでございます。
それで、10年研修につきましては、受講の期間というのが、おおむね校内で20日間、校外で20日間、合わせて40日というのが標準的な姿でございまして、私どもが行いました実態調査でも、校外の受講というのが大体18日前後ということになっております。これは、時間数にいたしますと100時間を超える時間ということになっているわけでございまして、現在、10年を経験した公立学校の教員の方はこの10年研修を受けていただいているということでございます。免許更新講習の30時間に比べますと大変多い時間ということになろうかと思います。
なお、教員について今考えてみますと、公立学校の場合、免許状を授与されて、それから採用までの間に、実は数年のギャップがある方が多いのが実態でございます。免許状を授与されて、すなわち大学の学部を卒業されてすぐ採用される方は採用者の25%程度でございまして、75%の方は数年たってから採用されているということで、その点でも、免許更新講習の時期と10年経験者研修の時期というのは少しずれる方が多いということは言えようかと思います。
それから、授業に穴があくのではないかというお話でございましたけれども、この免許更新講習というのは、土曜日、日曜日あるいは長期休業期間中の受講ということが基本でございまして、平日の授業への影響はほとんどないというふうに考えているところでございます。
■西村(智)委員
いつでしたでしょうか、同僚議員が、例えば部活のときの手当の話をどなたかされたと思うんですよね。1日1,200円ですか、非常に低額だと。額はともかく、今局長は、土日そして長期の休業期間にその研修を行うことになるので授業などの穴はあかないというふうに言われました。私が伺ったのが、授業に穴があくんじゃありませんかと伺ったのでそういう御答弁だったと思うんですけれども。
それではということで、冒頭私が申し上げた、いわゆる教職員の忙しさや健康状態ということからいたしますと、土日や長期休業期間中に研修を受けなければならないということになりますと、ちょっと伺いますと、夏休みなんかはいろいろ部活の大会シーズンだったりするんだそうですね。そうすると、そちらの方も手が離せないし、しかし研修もかぶってくるということになりますと、一体これはいつ本当に研修を受けることができるんでしょうか。また、新任研修なんかは非常に過密ですし、若い先生に学級担任なども任せたいというふうに考えても、実際にそれもままならない、そういう声もあるわけなんですけれども、一体この研修、いつ受けることができるんでしょうか。
■銭谷参考人
先ほど御答弁申し上げましたように、免許更新講習は、免許を授与されてから9年目、10年目、この2年間で30時間受講していただくということになるわけでございます。ですから、長期休業中、もちろん学校の先生方は、部活の指導があったり、あるいは1学期のお仕事の整理の仕事とか、いろいろあることはあると思いますけれども、これまでも研修のために随分夏休みはお使いになっているわけでございますし、現に10年研修は、夏休みを中心に20日間近い研修を、正式採用になってから10年を経た先生が受けているわけでございますから、先ほど言いました2年の間に時間を差し繰りして受講をするということは、これは私は十分に可能であるというふうに考えております。
なお、土曜日、日曜日、こういうときを使う、こういう受講の仕方もあるわけでございますので、30時間免許更新講習を受講していただきまして、新しい知識、技能というものをしっかりと身につけていただいて免許を更新していただく、そのことがまた、保護者や国民の間から、本当に自分たちの先生はきちんとこういう更新を修了して立派な先生だということにむしろなるのではないかなというふうに思っております。
なお、免許更新講習は10年ごとでございますので、10年研は10年を経た後の時期だけでございますけれども、免許更新講習は10年ごとに講習を受けていただくというものでございます。
■西村(智)委員
政府側の答弁を今伺いました。9年目、10年目で土日などの時間をやりくって研修制度を受けてくれということなんだそうでありますけれども、先ほど大臣、その着席の席から、民主党の方が負担になる案じゃないかというような発言がちらっと耳に入りました。民主党のこの研修制度に対する考え方、それについて、一体本当にどういう考え方でこの民主党の提案をされたのか、その点について一点伺えればと思います。
■藤村修委員
法定の研修で、先ほど御説明あったように、いわゆる教育公務員の場合には、初任者研修とそれから10年研修というのが法定研修であります。10年研修については、さっきの説明のとおり、それなりのしっかりした研修が行われているということ。
そこで、我々は、この10年法定研修を、まさに10年ですから、教員に、教諭として正式になって10年目に研修を行うのが10年研修で、ちょうどその時期に、我々は、研修をしっかりと、国が内容的にも定め、そしてその修了認定をするという形で、政府の提出している30時間の更新研修と仕組みとしては似ております。
ただ、時期として、さっき局長言っているとおり、実は、今回の政府の免許法による更新研修というのは、教員になって3年目の人あるいは4年目の人、5年目、非常にばあっとあります。我々の方は、あくまで教員になって10年でまさにリニューアルをしていただく。次は20年があります、もちろん。
かつ、内容的に、まず30時間を、まさに10年間の大きな進展に基づく一般的な教養、これは合同で、つまりどこかで集まってきちっと、大学等も利用するということですが、残り70時間については、うち40時間を教科研修、これは、いわゆる今のIT社会ですから、Eラーンという、まさにITを利用して自宅ででもできるようにしたい。それから、さらに30時間について、実際の模擬演習ということで、これはやはり実際の現場で研修していただくというわけです。
トータル100時間を想定している中では、今の10年講習というものとほぼ一緒かあるいはそれより少ない、特にEラーンを利用すれば出っ張っていく時間はうんと少なくなるのではないかな。我々は負担をそれ以上にふやすということではないということは御理解いただけると思います。
■西村(智)委員
負担を今以上にふやすということではない、明快な御答弁をいただきました。
大臣、やはり、今ある研修制度をこのように活用することによって、形骸化されてきたと言われる研修制度、これはもっと充実を図っていくことが可能なのではないかと思うのです。その方が先決ではないかというふうに考えますが、その点についてどうお考えなのかということ。
いずれにいたしましても、研修制度というのは、やはり学校がよくなって、そして教員や保護者、そしてまた地域の皆さんが協力をしていくという中で実現されるということであれば、これはもう本当に一緒に協力をしていきたいという思いだろうと思うんですね。ぜひ、多くの方々の、国民の、特に現場の納得が得られるような形でこの教員免許更新制そしてまた研修制度というのは具体化を進めていくべきだろうというふうに考えるんですけれども、この点についての見解を伺います。
■伊吹大臣
まず、現在の10年を超えた人たちに受けていただく研修というのは、どちらかというと、自分の専門分野、自分の得意とする分野に磨きをかけて、新しい知識を吸収していただくということを主眼として行われています。今回提案をいたしております、教職についてからの研修ではなく免許を持った人たちの10年研修というのは、御承知のとおり、再三答弁しておりますように、新しい時代に沿った全般的な知識をもう一度確認する、同時に、生徒を把握する技術その他についてのその時点での確認をさせていただく、こういうので、少し研修の性格が私は違うと思っております。
それから、現場の意見を聞いて物事を決めなければいけないというのは、それは当然、いろいろな事柄を処していく場合の一つ大切な視点です。しかし同時に、組織全体の意見を聞く場合に、例えばスイスの一部で行われているような全有権者の全員参加の民主主義もあるし、代表制の民主主義もあるし、あるいは国民の意見を聞きながら国会でつくった制度でお願いするという意見もあるわけで、現場の意見を常に聞いてそのとおりしなければならないという意思決定の仕組みは、むしろ組織体では極めて例外で、そのことだけで物事を決めるとすれば、やはり現場の意見に引っ張られます。
現場の意見は極めて大切なものですから、十分その点は聞かせてやりますけれども、聞かせてやるというより、我々が研修の実施権者じゃありませんから、各教育委員会に聞いてもらった意見を我々がもう一度再聴取して基準は決めていきたいと思いますけれども、現場が納得しなければ物事を決めちゃいけないということだと、やはり集団の意思決定というのはうまくいかないのではないかと思います。
これは、おのおのの人の持っている民主主義に対する考え方の違いだろうと思いますから、これ以上先生と議論しても、先生は私の意見に反対だろうとおっしゃいますから、これは、先生の御意見は御意見として承らせていただきます。
■西村(智)委員
いえいえ、私は、この研修制度そして更新制に実際に主体となってかかわっていくのは現場の先生であるわけで、そこの実践によってこの研修制度そして免許の更新制の成否が決まっていくことになっていくので、そこの納得を得られるような形で進めていっていただきたいと申し上げております。そこのところは強く要望しておきたいと思います。
続いて、学校教育法について何点か伺いたいと思っております。
今回は、教育基本法の改正を踏まえてこの学校教育法も何点か改正がなされておりますけれども、まず第一点目に伺いたいのは、今回、義務教育の目標に関する規定が明確化されております。
この間、教育基本法の特別委員会でも話題になってきましたのは、いわゆる子供の学力の問題だったというふうに、一つにはそれがあったというふうに承知をしております。今回、学教法の中で義務教育の目的、目標を規定することが子供の学力の向上にどういうふうに影響していくのか、そしてまた、義務教育の目標の達成状況についてどういう方策で明らかにしておこうとしているのか、伺いたいと思います。
■銭谷参考人
今回御審議をお願いいたしております学校教育法の改正案におきまして、第21条に義務教育の目標という規定を設けてございます。これは、教育基本法の5条に義務教育の目的というものが規定をされまして、それを受けて義務教育の目標というものを学校教育法に規定したわけでございます。
この学校教育法における義務教育の目標というのは、教科等の教育内容の大枠を規定するものでございまして、教育基本法に規定をされている教育の理念と、具体的な各教科等の内容を定める学習指導要領をつなぐ役割も果たすものでございます。
また、同じく学校教育法の改正案の第30条の第2項におきまして、基礎的な知識及び技能を習得させた上で、習得した知識、技能を活用して課題を解決させるために必要な思考力、判断力、表現力等をはぐくむ、そしてその際に、主体的に学習に取り組ませるといった、指導上重視すべき点についても明確化しているところでございます。
こういった義務教育の目標の規定そして指導上重視すべき点、これらを踏まえまして、今後学習指導要領を改訂して、確かな学力の育成を図っていきたいというふうに考えているところでございます。
なお、学習状況の把握ということにつきましては、文部科学省としては、学力・学習状況調査の結果なども踏まえながら、その実情の把握と改善に取り組んでいくこととしているところでございます。
■西村(智)委員
非常に漠とした答弁をいただきましたが。
義務教育の目標に新設された項目あるいは見直しされた項目、改正学教法の第21条以降に書かれております。これは、改正された教育基本法を受けて自動的に見直された項目であるというふうに理解してよろしいのでしょうか。
■銭谷参考人
学校教育法の改正案の21条の義務教育の目標は教科等の教育内容の大枠を規定するということは、先ほど答弁をさせていただいたところでございます。
今回、この義務教育の目標を規定するに当たりまして、基本的な考え方といたしましては、一つには、現在、小学校と中学校、それぞれにつきまして目標が規定をされております。小学校の目標、これが8項目ございます。中学校の目標、これが3項目ございます。この現在の小学校、中学校の目標をまず基本にするというのが第一点でございます。
そして、第二点といたしまして、改正教育基本法の2条で新たに明確にされました理念の中で教科等の教育内容の大枠として示すべきものを加えるという考え方で、整理をして10項目にしたところでございます。
なお、その際、これまでの中央教育審議会の答申などにおきまして、これからの義務教育において重要と考えられると指摘されたものを新たに規定をしているものもございます。
以上でございます。
■西村(智)委員
その新たに規定されることになったというのは、どういう事項になりますか。
■銭谷参考人
まず、改正教育基本法の2条で新たに明確にされた理念の中で今回加えられておりますものは、ちょっと例示で恐縮でございますが、「公共の精神」、「生命及び自然を尊重」、「我が国と郷土を愛する態度」などがございます。
それから、これまで中教審答申などにおきまして、時代の変化等を踏まえまして、これからの義務教育において重要と考えられると指摘されたものとして、今回新たに文言を入れたり規定をしているものとしては、「家族と家庭の役割」、「情報」、「読書」といったようなものがございます。
■西村(智)委員
そういたしますと、改正教育基本法第2条の中にあります「公共の精神」、生命の尊重、生命の尊重についてはまた後で伺いたいと思います。私はこれは入っていないんじゃないかと思うんですけれども、後で伺います。それから「我が国と郷土を愛する態度」、そういったものが入ったということなんですけれども、そういたしますと、例えば、改正教育基本法の第2条第3号、「男女の平等、自他の敬愛と協力」などは、これは入っていないわけですね。これはなぜ入っていないんですか。
■銭谷参考人
ただいまお話のございました改正後の教育基本法2条に規定をされております「個人の価値を尊重」あるいは「男女の平等、自他の敬愛と協力」、こういった内容につきましては、実はこれは、改正前の教育基本法にも規定をされていたものでございます。ただ、改正前の教育基本法にも規定はされていたわけでございますが、先ほど申し上げました現行の学校教育法の小学校、中学校の目標には明示的には規定をされていないものでございます。
今回の義務教育の目標は、現行の小学校、中学校の教育の目標に、改正教育基本法におきまして新たに明確にされた理念を加えるということを先ほど申し上げましたけれども、そういう観点から、個人の価値の尊重や男女の平等、自他の敬愛と協力というのは、文言としては、学校教育法のこの義務教育の目標の中には規定をしていないというものでございます。
■西村(智)委員
新たに規定されたものであるから今回学教法の中に入れたということなんですけれども、そういう線引きでよろしいんでしょうか。
今回の教育基本法の改正のときには、新しい時代になったので、新しい時代に対応するために新しい教育基本法をつくります、こういう説明だったわけですよね。大臣、そうですよね。そうだといたしますと、時代が変わって、これは文科省の認識ですよ、私たちの認識は違いますが、新しい時代になって新しい教育基本法ができたんだから、学教法の中でもそれをやはりしっかりと入れる必要はあったのではないかと思います。
この線引き、私は納得できません。新しく入ったから新しく入れました、これでは納得できないんですけれども、これは、線引きはどういうふうに、本当にそういう説明でいいと思っていられるんですか。
■銭谷参考人
先ほど来御説明を申し上げておりますように、学校教育法における義務教育の目標というのは、教科の大枠等を示す、いわば教育内容の大枠を示す目標ということになるわけでございます。そして、具体的には、学習指導要領等でさらに各教科等の目標、内容として深められていくというものでございます。
繰り返しになりますけれども、教育基本法と学習指導要領をつなぐという役割をこの学校教育法は担っているわけでございます。したがいまして、教育基本法にございます文言すべてを同じように書くというものでもございませんし、学校教育法にないからといって教育基本法にはあるわけでございますから、学習指導要領の中では、当然これは取り上げられてくるものはあるわけでございます。
そこで、今回の考え方としては、従前の、改正前の教育基本法に文言があって、現在の小学校、中学校の目標に規定をされていないものはそのような扱いをした。それから、新たに教育基本法に加えられました、規定をされました事柄については学校教育法の方で明示をするようにした、こういうことでございます。
なお、具体的にちょっと申し上げますと、例えば「個人の価値を尊重して、」というのは、これは従来の教育基本法にももちろん規定はあったわけでございますけれども、これはむしろ教育全体で一貫して対応していかなければいけない事柄でございますし、学習指導要領以下でこれはまた、義務教育の段階でもそのことは当然指導していくということになります。
それから、「男女の平等、自他の敬愛と協力」ということにつきましては、規定ぶりとしては、学校教育法の規定の中にも「協同」ということが規定をされております。「協同の精神、」という規定がございまして、その中で従来から読み込んでいたと私ども理解をしておりまして、今回の義務教育の目標においても引き続き「協同の精神」等は、これは規定をしておりますので、その中で読み込み、もちろん学習指導要領以下で、こういう「男女の平等、自他の敬愛と協力」の趣旨というのは義務教育の中で実施をされていくということになるわけでございます。
■西村(智)委員
ここはやはり論理構成の弱いところだと思います。前段の方では、学教法と学習指導要領以下がセットでその内容を決めていくんだというふうな御答弁でありながら、後段の部分では、いや、「公共」のところは全体で読めますですとか、「協同」で男女の平等などというのも含みますというふうにおっしゃっておられる。やはりちょっと論理的にその線引きは弱いんじゃないかと私は思っているんです。ここのところはもう少し聞いていきたいところであります。
例えば、自他の敬愛と尊重でありますけれども、これはどう読んでも第21条の目標の中には入っていない、読めないと思うんですね。
ただ、思い出してみていただきたいんですが、教育基本法の議論をしているときに、いじめ、未履修、そして自殺自死、この3つが学校での大きな問題として議論をされておりました。いじめによる自殺などが多発したということから考えますと、やはりこの自他の敬愛と尊重というのは学教法改正の中でしっかりと重視されなければならない項目であったかというふうに思うんですけれども、これについてはどのようにお考えでしょうか。
■銭谷参考人
先ほど来申し上げておりますように、改正前の教育基本法の中にも「自他の敬愛と協力」という文言はあったわけでございます。そして、現在の小学校の目標それから中学校の目標には、この「自他の敬愛と協力」という文言は今規定をしていないわけでございます。
そして、今回の学校教育法の改正におきましては、従来の教育基本法に規定がありまして、現在の学校教育法の小学校、中学校の目標に規定をしていないものは、それはそれと同じ扱いをしたということでございます。
そして、学校教育法の目的、目標というのは教育基本法と学習指導要領をつなぐものでございますから、具体的には、学習指導要領におきまして、例えば道徳の中で、他人といたわったり助け合ったりするという中で、自他の敬愛と協力ということは、教育基本法の精神を踏まえて、きちんと指導するということになっているわけでございます。(発言する者あり)
■西村(智)委員
ですから、論理的にやはり弱い。それは、こちらの方から発言がありますけれども、やはりつなぐのが弱いんですね。それであれば、目標の中に書いた方がよりすっきりするのではないかというふうに考えるわけなんですけれども、大臣、この点については大臣はいかがお考えですか。
■伊吹大臣
私、ちょっと今、率直に言って、初中局長の答弁を聞いていて、いや、それは少しわかりにくいなと思いました。現行のものに書いてあるから今回のものには書かないというのは何の説明にもなっていないんじゃないでしょうか。
こういうことだと思うんです。
先般の国会でお願いをした教育基本法は、義務教育基本法ではないんですよ、教育基本法なんです。だから、単に文部科学省が所管をしているすべての部分をカバーしているだけではなくて、ある意味では、社会教育あるいは自然環境保全、食育、そういったあらゆる部分の、日本の教育すべてに関する憲法と言われるのはそういう理由からなんですね。
その中で、今回お願いをしている学校教育法の義務教育部分は、先ほど来政府参考人が申し上げているように、教育基本法の精神あるいは教育の目標を踏まえて、義務教育として教えるべき項目を列挙している。だから、当然、基本法に書いていない読書の尊重だとか何かということも具体的に記述されている部分もあります。そして、それをさらに明確化して学校現場へおろしていくのは、いわゆる告示である指導要領だ。
こういうことですから、立法政策というか、立法論として書いておいた方がいいという御判断も当然あって構わないと私は思いますし、最後は、教育基本法の精神に反することが書かれている場合は、これは少なくとも我々は国会へ提出できない法案である、学校教育法は。そういう位置づけになっていると私は理解しておりますから、先生の御指摘も立法政策としては一つの考え方であろうと思います。
しかし、それは、立法者の意思として、先ほど政府参考人が申し上げたような法案でお願いをするというのが政府の考えです。
■西村(智)委員
大臣、でも、一番冒頭にわかりにくいとおっしゃいましたよね。わかりにくいんですよ。今までに書いてあったものだから入ったとか……(伊吹国務大臣「入ってないと言っている」と呼ぶ)ですね。
結局、この第21条に挙がっている項目が、どういう線引き、どういう基準で入ってきたのか、そして、どういう基準で入らなかったのかということについては、やはり明確にその判断基準を示していただく必要があるというふうに私は思っています。読めるものがあるとか、読めないものがあるけれどもそれは義務教育についての目標だからいいとか、いろいろおっしゃいましたけれども、それについては明確な基準があるべきだと思いますけれども、局長。
■保利耕輔委員長
文部科学大臣。西村さん、いいですか、文部科学大臣から先にちょっと。
■伊吹大臣
ちょっと先ほどの答弁で、あるいは政府参考人の言っていたのを私が誤解して答弁をしたかもわかりませんので、後ほど参考人に確認していただいて結構ですが、旧教育基本法には確かに自他の尊重というのはありますが、現在の学校教育法は、18条の1号から八号までを見ると、「学校内外の社会生活の経験に基き、人間相互の関係について、正しい理解と協同、自主及び自律の精神を養うこと。」というのが書いてあるので、現在の学校教育法には自他の尊重という言葉はありません、だから今回もそれをあえて入れなかったという趣旨のことを参考人が言ったというふうに理解すると、なるほどな、よくわかったという気はいたしました。
私が誤解していたかどうかをきちっとわかりやすく御説明するように。
■銭谷参考人
実は今申し上げようと思っていたことを大臣の方からお話をしていただいたわけでございますが、現行の学校教育法の小学校の「目標」の中に、18条第1号に「協同、自主及び自律の精神を養うこと。」という規定がございます。それで、今回の義務教育の目標でございます21条の1号に「自主、自律及び協同の精神、」「を養うこと。」という規定がございます。ですから、この「協同」という言葉は、これまでもございましたし、新しい学校教育法の義務教育の目標の中にも入っている。
これは、先ほど来先生がお話をされておられます教育基本法の「自他の敬愛と協力を重んずる」といったことに非常に深くかかわって、ここで受けていたということになるわけでございますので、先ほど来私が、それは前も申し上げたと思いますけれども、改正教育基本法で改正以前の教育基本法と同じ文言がまた使われているというものについては、特に、今回学校教育法における義務教育の目標規定において、従来の小学校、中学校の目標規定の文言について余り変更はしていないということで申し上げたわけでございます。
そのかわり、新たに今までの教育基本法に加わった教育の目標というものについては、これは学校教育法の義務教育の目標で受けるように規定するようにした、この2つの考え方を先ほど来申し上げているわけでございます。
■西村(智)委員
受けると局長おっしゃいましたけれども、受けるという言葉はくせ者だと思いますよ。ごめんなさい、くせ者と言うとまた大臣に何か言われてしまうのでしょうか、大丈夫でしょうか。
現行法の第18条の1号で、ここで本当に自他の敬愛と尊重、これが、では読めるわけですか。これまで国会審議でそういう議論はありましたか。では、私は議事録を調べてみます。第18条1号、ここのところで本当に自他の敬愛と尊重という意味合いが含まれているのかどうか、読めるのかどうか。ここは、しっかりと調査をし、またいろいろな研究者なりから話を聞いてみたいと思いますが、読めないと思うんですね。読めないというか、受けていないと思うんですよ、ここはそもそも。
そういたしますと、それをまた第21条の第1号に持ってきたということなんですけれども、これはやはりストレートには読めない、書けない。やはり第21条の目標というのは、なぜこういう書き方になったかということは、極めてあいまいなままであるというふうに今この時点でも言わなければならないと思います。
それで、一つ一つ項目を見ていくと、本当にたくさん伺いたいことがいろいろあるんですけれども、ちょっと残念ながら時間も迫ってまいりましたので、一点だけ伺いますが、第4号、「家族と家庭の役割、」というのが、これが全く新しく入ってまいりました。今まで、読書が新しく入ったじゃないか、そういう議論はあったと承知をしておりますけれども、第4号、「家族と家庭の役割、」というのが新しく入ってきたわけなんですけれども、これは全く新しい項目だという理解をさせていただきます。
その上で伺うんですけれども、これは、何か特定の家族像あるいは特定の家庭内の様子、それを指すものであってはならないというふうに考えるんですけれども、この点、確認させていただいてよろしいですか。
■伊吹大臣
ちょっと参考人の立場からはなかなか答えにくい、極めて価値観にかかわるところですから、私からお答えしたいと思いますが、特定の家族観について、これが正しいとか正しくないということを想定しているということは、私は適当なことじゃないと思います。
ただ、法治国家でありますから、現在日本の国会が国民の総意としてつくっている方向性のもとでの家族というものはこういうものであるということは教えなければならないと思います。
■西村(智)委員
えっ、それは何ですか。法治国家としてその方向性を形成するための家族、家庭であっていただきたいというのは、それはどういう意味ですか。
■伊吹大臣
いただきたいとは一言も申し上げておりません。
日本の民法が想定している家族というものはこういう方向性になっているという事実は教えなければならないと申し上げているんです。
■西村(智)委員
いや、そういたしますと、では、それは特定の家族や家庭の姿というものを指しているということになるのではないかと思うんですが、どうでしょうか。ぐるぐる回るみたいですが。
■伊吹大臣
全くそうならないと思いますよ。法律がそういうことを想定しているということは明確に申し上げなければ、だって、法律というのは国会が決めている日本のルールなんでしょう。それはこういうものであるということは言いましょう。しかし、それがいいとか悪いとか、それはおのおのの方々の判断なんじゃないんですか。おのおのの方々の判断について、どちらが正しいとか正しくないということを教えるということは想定していないということを申し上げているんです。
■西村(智)委員
一番最後の文章だけいただいておきます。要するに、どちらが正しいか正しくないかを教えるということはないということですね。
その前段の、民法が指し示している方向というあたりが少しわかりにくかったんですけれども、それについてはちょっと後で、また別の機会で大臣と議論させていただければと思っております。
目標の項目に関連するものといたしまして、現行法第20条で「小学校の教科に関する事項」というのがございましたが、これが改正されて、改正法第33条に変更されているんです。先ほど、局長の答弁だったでしょうか、教科等の教育内容というふうな文言があったかと思うんですけれども、細かい話になって恐縮なんですが、現行法の第20条、「小学校の教科に関する事項」というものが、これが改正法第33条で「小学校の教育課程に関する事項」というふうに変更になっております。
それぞれ何を指し示すのでしょうか。また、この改正の意味について伺います。
■銭谷参考人
現行の学校教育法の20条は、「小学校の教科に関する事項は、」文部大臣がこれを定めるという規定でございます。今回の改正案では、第33条で、「小学校の教育課程に関する事項は、」文部大臣がこれを定める、こういう規定になってございます。
ここの、現行の学校教育法第20条において用いております「教科」という意味は、各教科に加えて道徳、特別活動、総合的な学習の時間を含めました学校の教育計画である教育課程を意味するものとして使われております。
学校教育法に関します解説書でも、「本条の「教科」は、」、これは現行の学校教育法20条の「教科」という意味でございますが、「本条の「教科」は、教育の目的及び目標を達成するために「児童がどの学年でどのような教科の学習や教科以外の活動に従事するのが適当であるかを定め、その教科や教科外の活動の内容や種類を学年別に配当したもの」という意味の教育課程と同義に解するのが妥当である。」ということで、本条の「教科」は教育課程と同義に解されております。
そういうことから、今回の改正案は、その趣旨を明確にするため、「教科」を「教育課程」に改めるというものでございます。
■西村(智)委員
ここの教科ということについては、いわゆる学界の中ではまだやはり議論のある点ではないのかなと思うんですね。今局長が御紹介になったのは何でしたか、解説本ですか、解説本ではそのように書かれているということなんですけれども、学界の方などでは、いわゆる教科とそれから教育課程というのは別のものであって、教育課程の中には、いわゆる助言や指導基準ですとか、それからそこで教えるべき内容ですとかその順序までも含むというふうに理解をしておるというものもあるようなんです。
これは、そうしますと、改めて伺いたいんですけれども、「教科」から「教育課程」に変わった、文言が変わったということで、実質的に、例えば教科目名それから時間数、教える内容、その順序などを決定する権限が文部科学大臣により強く付与されるということではない、そういう理解でよろしいですか。
■銭谷参考人
ただいま先生がお話しいただいた御理解で結構でございます。
最高裁の判決でも、学習指導要領自体が全体として見て中学校の教育課程に関する基準の設定、こういう言い方をよく使っておりまして、つまり、今の20条は「教科」という文言ではございますが、教育課程というのと同義に使われてきておりましたので、今回、そこをわかりやすく教育課程という言葉に変えたというだけのものでございます。
■西村(智)委員
時間になりました。学校評価の点について質問したかったのですが、また民主党提出者にも質問したかったのですが、次回に機会をいただきたいと思います。
ありがとうございました。(拍手)