■西村智奈美委員
民主党の西村智奈美でございます。
今回、パート労働法が1993年の施行以降、大変大幅な見直しということで、私たちも期待をしておりました。これまで、審議会建議、そして法案要綱、法案と出てまいりましたものを見て、多くのパート労働者の方々が抱いていた希望は、むしろ、どちらかというと失望に変わったというふうに思います。
今、日本の労働市場というのは激変をしておりまして、その中でも多くの矛盾点、問題点をいわばこのパート労働の分野が抱え込まされている。そうした中で、本当に多くの働いている人たちは、やはり不合理な差別や不当な差別によって苦しんできたという実態があります。これは多くの事例もありますし、幾つかの裁判例もありますし、大臣もよく御承知のことでありますので、改めて申し上げるまでもありません。
しかし、こういった実態をどう解決していくのか、解消していくのか、そして、すべての人に働きに見合った処遇を確保するためにどうするかというのが、今回のパート労働法の改正の立法趣旨でなければならなかったと思っております。しかし、これは大変不十分なことがいろいろある。
私たち民主党からは、今回、いわば対案という形でお示しをいたしました。すべてのパート労働者に均等待遇を義務づけるということ、そしてまた、新しい職場でのいわばルールづくり、物差しづくりを目指すという点で、事業所内の均等待遇等検討委員会というものを設置している。これは多くの有識者の皆さんから、今、大変高く御評価をいただいているところでありまして、ぜひこの法案を成立させていただいて、そして、次の時代に向けた新しいワークルールづくり、これに踏み出していきたいと思うところでございます。
きょうは、私、民主党案に質問するわけにはまいりませんので、政府案に対して幾つか質問していきたいというふうに考えております。
今回の政府案の一番大きな問題点は、通常の労働者とパート労働者のいわゆる均衡処遇というものを見ていくときに、その比較の対象となるところが極めて限定的で、パート労働者のうち本当に差別禁止の対象になるパート労働者というのは極めて限られるのではないか、そしてまた、今、実態は、通常の労働者といえども極めて長時間労働なり過重な労働が強いられているという実態にありますので、一体どの通常の労働者とどのパート労働者を比較するかということが、やはり大変大きな問題なんだろうと思っております。
そういう点からまず質問させていただきたいと思うんですけれども、一体だれとだれを比較するのか。通常の労働者の働き方も一律ではありません。これは、先日内山委員が質問されていたことでありますけれども、つけ加えてということで質問していきたいと思いますが、まず第一点目は、所定労働時間が週35時間の労働者、これは、このパート労働法で言うところの通常の労働者にもなり得るし、また短時間労働者にもなり得るということだと思うんですけれども、一体どういう要件を満たせば通常の労働者となるのでしょうか。恐らく通達だということなんでしょうが、しかし、通達の中には35時間という数字などはどこにも書いていないわけですね。いかがでしょうか。
■大谷泰夫政府参考人(厚生労働省雇用均等・児童家庭局長)
お答え申し上げます。
この法律で考えております通常の労働者とは、いわゆる正規型の労働者を言い、具体的には、社会通念に従い、フルタイム勤務の者について、当該労働者の雇用形態が期間の定めのない契約であるかどうか、それから待遇、その中身としては、長期雇用を前提とした待遇がなされているかどうか、こういったものを総合的に勘案して判断するということにしているわけでございます。
今御指摘のありました週の所定労働時間が35時間という方でありますが、この方につきまして、今申しましたような要件を満たせば、これは通常の労働者ということで判断されるものというふうに考えております。
■西村(智)委員
別の聞き方をいたしますけれども、それでは、通常の労働者の中には、いわゆる短時間正社員も含むというふうに考えてよろしいのでしょうか。
■大谷参考人
通常の労働者につきましての概念、先ほど申し上げましたところでありますが、今お話のありましたいわゆる短時間正社員でありますけれども、この方につきましても、雇用の要件を満たせば通常の労働者として判断されることになるわけでありますが、ほかにフルタイムの通常の労働者がいる中で、例えば極めて短い労働時間勤務の短時間正社員という方がおられた場合については、これはいわゆる正規型のフルタイム労働者と判断される可能性は低いのではないかということで、個別の事情により判断する要素があると考えております。
■西村(智)委員
雇用期間の定めのない契約を結んでいる労働者は、今のパート労働者の中で一定の比率を占めております。どういう要件を満たせば、こういう労働者が通常の労働者となるのでしょうか。長期雇用を前提とした処遇となっているかどうかが判断基準となるのか、伺います。
■大谷参考人
通常の労働者の考え方は、冒頭申し上げたとおりでございます。このケースの考え方でありますけれども、パート労働者と一般に言われている方の中で、期間の定めのない方があるわけでございまして、こういった方々につきましても、冒頭申し上げました通常の労働者という要件を満たせば、この法律上の通常の労働者として判断されるということはあり得ると考えております。
■西村(智)委員
それでは次に移りますけれども、既に正社員と同じ処遇制度が適用されている短時間労働者も存在いたしております。こういった短時間労働者はどういう要件を満たせば通常の労働者ということになるのでしょうか。これは雇用期間の実態で判断するのかどうか、お伺いいたします。
■大谷参考人
このケースでありますが、例えば、正社員と同じ処遇制度が適用されているということになるわけでありますけれども、この方については、一般にパートというふうに呼ばれている方が多いわけであります。これらにつきましても、先ほどのケースと同じでありますけれども、通常の労働者、いわゆる正規型の労働者がいるということ、それから、フルタイム勤務の者でその雇用形態や待遇を総合的に勘案して判断するということについては、これも同じ考え方でありまして、その要件を満たせば、これは通常の労働者として判断されることになるというふうに考えております。
■西村(智)委員
同じ職場に週40時間の正社員と週35時間の正社員がいる場合に、短時間労働者の差別禁止あるいは均衡待遇の比較対象は、その両者を含むと考えてよろしいでしょうか。つまり、週35時間の正社員との比較もあり得るという理解でよろしいでしょうか。
■大谷参考人
先ほど御答弁申し上げましたとおり、週35時間の正社員という方もおられるわけであります。そういう方については通常の労働者と判断される場合がありますので、その場合は、今回の改正法の適用において、比較対象としては、いわゆる短時間労働者と通常の労働者との比較対象になり得ると考えております。
■西村(智)委員
転換制度が今回あるわけでありますけれども、同じ職場の中で通常の労働者への転換という場合に、週35時間の通常労働者への転換も含むというふうに考えてよろしいでしょうか。
■大谷参考人
週35時間の正社員のケースでありますけれども、先ほど申しましたような考え方でこの方が通常の労働者というふうに判断される場合につきましては、そういう形への転換の推進策を講じるということは、これは改正法案上のいわゆる転換の義務を履行したことになると考えます。
■西村(智)委員
今のお伺いの中で、実態で判断するという一連の御答弁でありました。つまり、事業所側の主観ではなくて実態で判断するというのは、非常に重要なポイントであろうというふうに考えております。
それで、だれとだれを比較するかという項目でいいますと、最後の項目でありますけれども、今は週35時間の正社員というのは存在いたしませんが、新たにそうした枠組みをつくることも当然含まれると考えますが、いかがでしょうか。
■大谷参考人
個々の事業所におきまして、週35時間の正社員、こういう新たな枠組みを設けられるという場合につきましては、その新たな正社員が通常の労働者と判断される場合については、その形への転換というものも今回の推進の中に含まれているということでございます。
■西村(智)委員
続きまして、次の項目に移りたいと思います。
今回、法律の中では、第8条「通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止」、ここが大きな争点になるだろうと思っております。いろいろな分析をいたしておりますし、これまでの答弁もあるんですけれども、やはりまだまだ懸念というのは消え去らない。今までのパート労働者の置かれていた実態というのは、非常に厳しいものだったというふうに思っております。
つまり、事業主が、一つの事業所の中で、通常の労働者、普通に働くいわゆる正規型、典型型の労働者と、それからパート労働者の人たちがいたときに、この人には、例えば長期的なキャリア形成を考えているのでこういうコース別の管理をします、パートの人たちに対しては、そういった長期的な人材活用は考えていないからこういうコースですということで、まず入り口で、コース別雇用管理で分けられるということが大変多かったわけですね。
ですので、昨年の男女雇用機会均等法の改正のときに私たちが主張してきたのは一つはこの点でありまして、やはり性差別、間接差別という法理とあわせて、このパート労働法も一緒に見直しをしていかないと、実際にパート労働者の抱えている様々な問題というのは解消できないということで、昨年の均等法改正のときに、私たちはパート労働法の改正案も一緒に出したわけでありますけれども、政府の方では、パートの問題に対する認識というのがやはり薄いのではないかなというふうにずうっと拝見をしておりました。
今回出てきた法案においても、やはり今実際にパート労働が抱えている問題への対策というのは極めて弱い。これで本当にパート労働の抱える問題が解消できるのか。この第八条の中で三要件をつけたことによって、むしろ、パート労働者の中でもさらに格差が広がっていくし、通常の労働者との間でもますます格差が広がっていく、そういうことが懸念をされているわけであります。そこのところをしっかりと皆さんは見ているのか。
大臣の答弁もこの間ずっと伺ってまいりましたけれども、非常に高邁な、高尚な議論になってしまって、先日の小宮山委員との議論、私は正直言ってついていけないところがありましたが、きょうは、大臣に御答弁をいただく前に、政府参考人とこの第8条についてしっかりと議論をしたいというふうに考えております。
まず、第8条、異動の範囲についてでありますけれども、昨日参考人質疑がありました。その中で佐藤参考人が指摘をされております。パートタイマーが働いている職場に正社員が配属されてきた、こういう場合に、その正社員は、キャリア形成を前提としたいわゆるジョブローテーション、この一環として配属されてきたのであって、同じ職場にいても、そうしたジョブローテーションが想定されていないパート労働者とは処遇が異なっても当然だ。こういうことはあり得ることだというふうに思っています。
しかし、これもきのうの参考人の御意見、中野参考人の御意見の中にありましたけれども、正社員のすべてがそういうジョブローテーションをしているとは限りません。中には、一定の部署を受け持つ範囲だけで異動している、そういう人たちもいるはずだと思うんですね。あるいは、実態や職場の慣行から見て、異動の範囲がおのずから限定されているという人もいるはずであります。
つまり、質問はこうです。正社員の中でも幾つかの区分けがあるという場合には、パート労働者の異動の実態から見て、同じ区分けになる人同士を比較するということになる、そういう理解でよろしいのでしょうか。
■大谷参考人
改正法案の第8条の差別的取り扱いの禁止、それから第9条第2項の均衡待遇において比較の対象となる通常の労働者は、職務内容が同一であることと、それから、今お話がありました人材活用の仕組み、いわゆる異動の範囲を含めてですが、そういうものが同じであること、この両方が最低限必要なわけでありますが、御指摘の人材活用の仕組みにつきましては、職務内容が同一であるという正社員について比較対象として見るということでございます。
■西村(智)委員
では、別の聞き方をいたしますけれども、異動の範囲について、それは単なる取り決めではなくて実態でということであれば、きちんとした実態を伴うものでなければならないというふうに考えますが、この点についてはいかがでしょうか。
■大谷参考人
改正法案の第8条それから第9条第2項において規定しております職務の内容及び配置の変更の範囲につきましては、当該事業所における慣行その他の事情から見るということとされております。
したがいまして、単なる取り決めが慣行とは異なっているというような場合もあり得るかというふうに考えますので、これは、そういった規定ぶり、それからその職場の慣行、双方で見て実態判断するということになると考えます。
■西村(智)委員
その職場の慣行などというものが、やはり往々にして使用者の主観的な思いであるということは、これはあると思うんですね。例えば、このパート労働者について長期的な人材活用を予定しているか予定していないかと聞かれたときに、予定していますというふうに答える使用者は、それはなかなかいないと思うんですよ。
この条文、8条の中で、いわゆる「見込まれるもの」というふうにありますけれども、ここの部分です。ここの部分は、私は、正直言って削除すべきではないか、政府案の中でも非常に問題の多いところでありますので、最低限ここは削除して出すべきではなかったかというふうに思います。
まずその点について伺いつつ、また、その見込まれるということでありますけれども、入っているということでお伺いをするんですが、単なる予定ですとか、そういった予定や使用者の主観的な思いであってはならないというふうに考えています。職場の慣行を含めて、客観的な事情によって明らかになるものだというふうにすべきだと思いますが、いかがでしょうか。
■大谷参考人
今お話しになりました職場における事業主のいわゆる主観みたいな問題をどう考えるかということでありますけれども、ここで考えておりますのは、そういった単なる予定とかそれから事業主の主観ということではなくて、それは規定や慣行というものを客観的に見て判断していくというふうになると考えております。
それから、見込まれるということの考え方につきましては、後ほど御議論があるかもしれませんけれども、どの時点で判断するかということでこれは必要な規定だというふうに考えておりますけれども、それは単に主観のことを言っているわけではないというふうに思います。
■西村(智)委員
その見込まれるというところは、結局、この前、小宮山委員の質問にもありまして、どの時点からというような議論ともかかわってくることだとは思うんですけれども、私は、これはまさに法案が骨抜きにされるおそれのある、極めて重大な文言だというふうに考えております。
続いてなんですけれども、異動について、単なる形式的な異動、先ほど申し上げたような、単に機械的なジョブローテーションということではなくて、職務との合理的な関連性が必ずこれは要件になるべきだというふうに考えますけれども、いかがでしょうか。
■大谷参考人
異動の中身でありますけれども、これは、法文上は、当該事業所における慣行その他の事情から見るということになるわけでありますが、その異動の範囲が合理的かどうかということであります。これは正社員も含めて、職場における人事異動がどうなっているかという、むしろ比較する対象との関係で、実態によって判断していくものであろうというふうにこのパート法の中では考えるわけであります。
しかしながら、合理性云々につきましては、当該の人事異動の内容が、例えば転勤であって、それが先ほどもお話しになりましたような、昨年も議論がありましたけれども、男女雇用機会均等法の中で男女間の間接差別とみなされるような場合にありましては、これは男女雇用機会均等法による規制の対象となっていくかというふうに整理して考えております。
■西村(智)委員
均等法ではよろしいんですけれども、それでは今回のパート労働法では、職務との合理的な関連性は要件にされていないという理解ですか。
■大谷参考人
職場の実態として行われている異動というものを対象の尺度にするということだと思います。
■西村(智)委員
そこが、非常に法律のいろいろなところにまたがって、結局、いろいろなところで穴に落ちてしまう危険性のあるところなんだろうと思います。そこは、やはり性差別という視点をしっかりとここに含めて考える必要があるということからいたしますと、不十分な答弁だったかなというふうには考えております。
それで、ちょっと具体的に異動の範囲について伺っていきたいのですけれども、具体的な事例を申し上げますので、それに即してお答えいただければと思います。
あるパート労働者、週四日勤務で働いているのですが、そこでは、正社員は、就業規則において異動ありの規定の適用がある、こういうふうにされております。しかし、正社員でも部門によっては異動が全くないところもあれば、異動はあってもせいぜい三〇%前後の社員が経験をするだけで、残りは異動しないまま定年まで勤務をしております。それであるのに、週四日勤務であるパート労働者は日給制で、金額にも開きがあって、その他の労働条件にも格差が生じているというケース、こういうときに、異動の範囲は実態で判断するのでしょうか。あるいは規定の適用で判断するのでしょうか。
■大谷参考人
この改正法案の第8条や第9条第2項におきまして規定しております職務の内容及び配置の変更の範囲につきましては、先ほど答弁申し上げましたとおりに、規定と慣行の双方から判断するということになるわけでありますが、今御指摘のケースについて、実際に異動しておられない正社員がいたといたしましても、集団として異動しているという実態があれば、それを勘案するというふうに考えます。
■西村(智)委員
何と、本当にそれでいいんですか、集団として実態があればと。ここはちょっとやはりおかしいんじゃないかと思います。異動の範囲は実態で判断する、規定の適用、両方だということであればまだ、ちょっと理解できないんですが。
ほかにもありますので続けて伺います。では、単なる予定にすぎない異動や社員としての位置づけ、例えば将来の幹部候補などということ、それによって、今回、改正パート労働法の8条の適用、これが決せられるということになるのでしょうか。
■大谷参考人
繰り返しになる部分もありますけれども、この改正法8条、それから9条2項において、これにつきましては、当該事業所における慣行その他の事情から見ることとされているわけでありますが、今お話にありましたような予定ということで、この予定が事業所における慣行あるいはその他の事情から見てほとんど実態と異なるというようなことであれば、これは、第8条や第9条第2項の規定の適用がある可能性があるということで考えます。
■西村(智)委員
そういうことであるとすれば、採用するときに、予定が違うというように関連する労働条件の違いを盛り込んでおけば、パートは低賃金で雇えるということになりますが、法改正はそういう趣旨だというふうに受けとめてよろしいのでしょうか。
■大谷参考人
予定について、これはさっき申しましたみたいに、客観的にこれは見なければいけないわけでありますけれども、その範囲でこの法律は適用されていくというふうに思います。
■西村(智)委員
ここはやはり、異動の範囲ということでいいますと、本当に厚生労働省はパートで働いておられる方々の職場の実態を見ておられるのかなというふうに、今回の答弁を伺っておりますと痛感いたします。
これまでにも何度も議論はありましたが、実際に差別禁止の対象となる人たちが、山井議員が、もう1カ月くらい前になりますよね、もしそういう人がいたらここに連れてきてくれと言っているのに、まだそういう人も出てきていない。しかも、今、この第8条の関係でいろいろ質問をいたしましたけれども、本当に、ただ規定をつくっただけで実際にこれで実効が上がるのかどうかというのは、私は、法律が実際に施行されたときに大変大きな心配をしております。
私たちの考え方は、8条のように、こういった3要件をつけて対象となるパート労働者を限定するのではなくて、すべてのパート労働者に対していわゆる差別的な不合理な取り扱いを禁止するということにいたしました。こうすれば実にすっきりとして、職場の実態に合った均等待遇が実現されていくというふうに考えておりますけれども、この政府案の中では、ますます本当にパート労働が分断されていくおそれ大だということを、この場で申し上げたいと思います。
引き続いて、やはりこの第8条の関係でありますけれども、期間の定めについて伺いたいと思います。
第8条の2の要件になっております期間の定めのない雇用でありますけれども、期間の定めがあっても契約を更新して継続していく、継続して働くことを前提とするもの、こういうふうに客観的に判断できる場合は含まれるというふうに理解してよろしいでしょうか。
■大谷参考人
改正法案の8条第2項は、期間の定めのない契約となっているかどうかを実態で判断するということが趣旨であります。御指摘のケースは、期間の定めがない契約と実質的には変わらないと客観的に判断できる場合であれば、これは対象となると考えます。
■西村(智)委員
そうでありますれば、実際に反復更新をしていない場合であっても、契約を更新して継続して働くことを前提とした契約関係にあると判断されれば、契約更新を予定するものとして、仮に一度も契約更新をしていなくとも、第8条の2項の要件を満たすというふうに理解してよろしいでしょうか。
■大谷参考人
改正法8条第2項は、期間の定めのない契約となっているかどうかを実態で判断することが趣旨であるというふうに申し上げましたが、このケースにつきまして、期間の定めがない契約と実質的には変わらないと客観的に判断できる場合であれば、今御指摘のような一度も更新されていないというケースでも認める場合がある、対象になることはあり得ると考えております。
■西村(智)委員
そうしましたら次の項目に移りますけれども、いわゆる職務の責任についてであります。
今回、職務の要素とされている責任につきましては、あくまでもその職務内容に必然的に伴う責任でなければならないというふうに考えておりますが、例えば突発的な事故やトラブルに対する対応というのは職務に伴う責任だと考えられます。その結果として残業するケースが生じることもあるだろうというふうに思います。また、職場全体の業務が多忙で、そこから残業が生じるということもあり得るだろうというふうに考えます。
しかし、だからといって、あらかじめ残業に対応できるかどうかということが責任の程度を判断する第一義的な要件にはならないと考えますが、いかがでしょうか。
■大谷参考人
残業についての考え方であります。職務の内容の要素であります責任が同じということに当たるかどうかというのは、今お話ありましたように、トラブルの発生時とか臨時や緊急時の対応とかノルマ等が、同じように職務上の責任として含まれるかどうかを判断するということであります。
したがいまして、残業につきまして見ますと、職務上の責任の軽重に伴って差異が生じるということはあるとは考えますけれども、今御指摘のありましたように、残業を責任と見る、一義的にそういうふうに見るということにはならないというふうに考えます。
■西村(智)委員
そこは大事なところだろうと思います。しかし現実は、残業できますかできませんかということは、恐らく使用者の側は常にパート労働者に突きつけている問題だろうと思いますので、そこのところは、言ってみれば、政府の指導体制ということになってくるんだろうと思うんですね。
それで、その指導体制というところについては後でまたお伺いをいたしたいと思いますけれども、その前に、ILOの問題について伺っていきたいと思います。
これも、昨日の参考人質疑の中でありました。中野参考人がILOの条約勧告適用専門家委員会、ここの引用をされまして、2007年の報告書において、女性パート労働者は男性パート労働者よりも長く仕事についているのに時間給は男性より低いという事実を指摘しております。賃金のジェンダー格差に対して講じられた措置とその影響について政府に検討結果の報告を求めるなど、数点にわたって、ことし6月の総会までに情報提供するように求めているわけですが、この中に、同一価値労働同一報酬の原則を実施するための手法の開発という、極めて重要な項目を含んでおります。
今回の短時間労働者法、今回のパート労働法の改正に当たって、こうしたILOの要請に即した措置を盛り込んでおくことが国際的な責務としても求められると考えますが、いかがでしょうか。
■大谷参考人
御指摘いただきましたILO条約勧告適用専門家委員会の意見におきまして、同一価値労働同一賃金原則の実施に関して、客観的な職務評価を促進するためにとられる措置について示すように求められているということでございます。
厚生労働省といたしましては、企業に対して、公正、透明な人事制度の確立を含むポジティブアクションを促すとともに、平成15年4月に作成いたしました男女間の賃金格差解消のための賃金管理及び雇用管理改善方策に係るガイドラインにおいても、賃金決定基準、評価基準の基準の明確化等、あるいは、公正、透明な賃金制度、人事評価制度の整備に取り組むべきとしているところでありまして、このような取り組みが企業において進むということは、男女間の賃金格差の解消に資するものというふうに考えております。
この6月に開催されますILO総会に向けてどのように対応するかにつきましては、現在まだ検討中でございますけれども、いずれにいたしましても、我が国の取り組みの状況について可能な限り情報提供してまいりたいと考えております。
■西村(智)委員
賃金決定方法の明確化、これが男女の賃金格差の解消につながるとおっしゃった、その根拠を教えてください。
■大谷参考人
これは、今回の審議でもるる御指摘いただいているところでありますけれども、パート労働法の中でいえば、これは、そういう職務についての分析を進めて客観的な評価を進めていって、格差がそれによって縮まるということが考えられるわけでありますが、それと同じような考え方が、このILO100号条約をとらえましても想定できるのではないかというふうに考えております。
■西村(智)委員
ILOにどう報告するかは今検討中だということでありますけれども、それでは、今回の改正に当たっては、ILOの要請に即した措置は盛り込まれていないというふうにお考えでしょうか。
■大谷参考人
ILOにどういうふうに報告するかにつきましては、現在、まだこれは政府内で、あるいは関係者間で検討していかなければなりませんけれども、今回の法律の改正をごらんいただければ、パート労働者の7割が女性であるという実態にかんがみますと、この法案が成立すれば、それは結果として男女間の賃金格差の縮小にも資するものであるというふうに考えております。そういったことについても書き込むかどうか検討してまいりたいと思います。
■西村(智)委員
同一価値労働同一報酬の原則を実施するための手法の開発ですね。それでは、こういう項目について政府案は何かしらの対応ができているということで考えておられるのか、私たちはそうではないと思いますが、いかがでしょうか。
■大谷参考人
これは朝の質疑でもございましたけれども、そういったことについて政府部内で研究してきたこともあり、それから、今回の法律改正のプロセスにおきましても、どういった法制上の立て方があるかということでいろいろ検討してきたところがあるわけであります。
それに加えまして、企業における先進例等というものも少しずつ出てきていることをこちらも把握しているわけでありまして、こういったものを促進、支援することも含めまして、その進展については何らかの考え方が示せるのではないかと思います。
■西村(智)委員
しかし、一部の企業でやっておられるのを待ってそれから政府の方で何らかの対応を考えるというのは、これはやはり、何度も申し上げることになるでしょうか、現状追認でしかない、現状に追随をしているだけで、立法する側の意思というのはどこにも示されていない、こういう問題点が今回の法案の中でもあるわけでありますね。私たち民主党の案では、今回、均等待遇等検討委員会、この中で、物差しづくりに向けて一歩を踏み出していきたいというふうに考えております。
今の日本の中では、職務給というものが全く確立をされていない。幾つか、ペイエクイティー研究会なども存在しておりますし、また、その裁判例で非常に大きな影響を与えた、そういう事例もあります。学界の方でも、学術の世界の方でもいろいろな検討がされているということであるのですけれども、しかし、どういう働きをどの程度までやったときにどの程度の賃金あるいは処遇が確保されるべきかという、その物差しづくりにいつまでたっても踏み出していかない限り、やはり、今回のパート労働法のように、細かく、政府案が言うところのグラデーションですか、グラデーションといいつつも、結局いろいろな要件がそこにぶら下がってくるわけでありますから、例えば、いわゆるパートの労働者の側から見たいろいろな問題点と使用者の側から見たいろいろな問題点というのは必ず合わないといいますか、ギャップが生じるわけですね。
そのギャップをいつまでもほったらかしにしたままにしておくと、物差しづくりに踏み出さない限り、こういう問題はいつまでたっても先送りされることになると思うんです。ですから、今回はそういった意味での物差しづくりに踏み出す大きなチャンスだったのではないかというふうに思うんですけれども、今回、また政府がそのチャンスを逃してしまったということでありますので、私たち民主党の方から提案をさせていただいた。
大臣、ここでちょっと御意見、御所見をお伺いしたいんですけれども、ILOのこういった要請もありますし、この物差しづくりにやはり政府としてはこのタイミングで踏み出すべきでなかったかというふうに私は考えます。大臣は現状追随だというふうにお考えになっておられるようなんですけれども、しかし、法律をつくる側がそんなことでいいのか。
やはり、いろいろなパート労働者の方々のお話を聞きますと、いわゆる政府の方から、まあ、ガイドラインという言葉が出たりすることもあるんですが、やはりきちんとした考え方を示していただくための努力はしてもらいたい、こういう声があるわけですね。大臣はいかがお考えでしょうか。
■柳澤伯夫厚生労働大臣
この前も園田委員の御質疑に対して私からお答え申し上げたことでございますけれども、厚生労働省といたしましても、物差しづくりと申しますか、均衡待遇の均衡とは一体何なのかということについて研究を重ねてきたわけですけれども、やはり、現在の労働法制というものは、そこにあらわれた労使の意思の合意ということを大きな枠組みといたしておりまして、それに到達することができなかったということでございます。
しかし、そうであることを放置しておけばいいかというと、そうではないということで、今回は、まず均衡待遇ということを実現すべく、もろもろの措置によってそうしたことを実現していこう、そして、その中で通常の労働者と同視すべき方々については、これは差別の禁止という均衡処遇の究極の形ということでそういうものを適用させていただく、こういうことにいたしたというのが経緯であります。
したがいまして、今委員のおっしゃるような物差しづくりということについては今後とも追求していくということにはなろう、このように思いますが、政府が、現実の実態と乖離した、そういうことを目的としたような法律改正をするのがいいのか、あるいは、現実を一歩一歩改善していく中で実態の方がいろいろとまた動きを持ってくる、そういうふうなことで、例えば職務給というようなものがある程度広範に認められるようになる、そういう事態になると、今御議論になっているような均衡処遇というものが非常に見える形で、水準の形で出てくるというようなことも考えられるかと私としては思っているわけでございます。
■西村(智)委員
実態は、このパート労働法ができてから、パート労働者の中にいわゆる有期雇用というのがふえ続けてきているわけですね。こういった実態があるということからいたしますと、やはりその有期雇用契約も含めて全体的な取り組みを進めていかないと、このパート労働法が改正されたときに、次に何が懸念されるか。有期、派遣、こういったところにどんどんといわゆるパートからこぼれていってしまうことですよ。つまり、パートからそういった別の雇用形態にまた移っていく、こぼれていってしまうということも懸念されているんですね。
ですから、今回のパート労働法の改正に当たっては、これはもう重々慎重でなければならないというふうに考えますし、また、いわゆるその有期雇用契約についてでありますが、この通常国会で、労働契約法の中で入ってきていないというふうに伺っております。検討項目としてはあったんだけれども、法案の中には入っていないと伝えられておるんですけれども、この有期雇用契約の問題、これを政府は一体どういうふうに対処しようとしているのか、この点について大臣の所見を伺います。
■柳澤大臣
有期雇用の社員についても、先ほど雇・児局長から御答弁申し上げましたとおり、例えばフルタイムの有期契約社員というのは、これはまさに、パート労働法の対象では直接ないのでありますけれども、この雇用管理に当たっても、当然にこのパート労働法改正法案の考え方が考慮されるということは、我々、強く期待をいたしておりますし、そうでなければならない、このように考えているということを、まず第一点、これは雇・児局長の答弁の復習ですけれども、申し上げておきたい、このように思います。
それから、有期契約労働者一般の問題について、例えば、労働契約法制の中で考えるべきではないか、こういう問題の提起でございますが、この点については今委員御自身からも御指摘がありましたように、審議が行われたわけでございますけれども、この審議においてやはりコンセンサスを得るに至らなかった。労働者代表の委員からは、均等待遇原則というものをぜひ契約法制の中で位置づけるべきだという意見が出されたのに対して、使用者側からは、有期労働者の態様というものが非常に多岐にわたっておる、具体的にどのような労働者についてどのような考慮が求められるのかということが不明ではないかということで、今申したように、合意に至らなかったわけでございます。
したがって、この問題は審議会自身においても引き続き検討することが適当であるということで、これから、今後また、この答申を踏まえて検討を進めていくということを表明しておりますし、私どももそうしたことを推し進めてまいりたい、このように考えております。
■西村(智)委員
今までも何度もこの有期雇用契約の問題を議論する場はあったと思います。そして、いつも課題として議題には上がってきたんだろうと思います。しかし、その審議の過程の中で、結局、政府のリードの不足もあったんでしょう、まとまらなかった。結局、この問題はずっと置き去りにされ続けてきているわけですね。
今、大臣は、これから検討していきたいというふうにおっしゃっておられますけれども、これはいつまでたったら本当に議論ができるんだろうか、今回のパート労働法の改正案を見ていても、有期という視点は全くありませんし、またこれから先ほったらかしにされるのではないか、そういう懸念を強く持っているわけであります。
ですので、今回の法案については大変大きな問題点があるということを申し上げ、私たち民主党の法案の中では、均等待遇、この大原則を貫くのだというこの柱をしっかりと立てております。こういった点では、政府案にはない、極めて特徴的なよさもある法案でありますので、ぜひ委員の皆さんからも御賛同いただきたい点でございます。
ちょっと時間が少なくなってまいりました。賃金の決定方法について伺っていきたいと思います。
今回、政府の法案においては、一定の要件を満たす短時間労働者について、賃金の決定方法を通常の労働者と同一にする、そういう努力義務を課すことにしております。これは、もう既に現行の指針があり、それに盛り込まれている内容ですが、今回、この指針から法律にいわば引き上げた。
それで、確認なんですけれども、指針に基づいて指導や助言を行ったり、それによって改善が図られた事例というのはどのくらいあるのでしょうか。
■大谷参考人
現行のパート労働法第10条に基づき行いました助言の実績といたしましては、平成17年で助言で終了したものが1,107件ということでありますけれども、賃金の決定方法を通常の労働者と同一にするとか、こういった細目についての件数は把握していないところでございます。細目についての件数は把握しておりません。
■西村(智)委員
多分ないと思うんですね、ないと思うんです。
そういたしますと、これが今回法律に引き上げられた、努力義務になったということなんですけれども、これによって行政の対応は何か具体的に変わるのでしょうか。
■大谷参考人
今回、この法律によりまして、その措置をパート労働の指針から法律上の努力義務に引き上げるわけでありますが、そういったことによりまして、法的な正当性あるいは社会規範性がこれは格段に向上することになるところでございます。
これに伴いまして、その行政指導を行います場合につきましても、法律上の根拠に基づき、強い社会規範性による実効性が期待されるというふうに考えておりまして、行政としても、本法案の成立、施行の際にはしっかりその施行に努めたいと考えます。
■西村(智)委員
法規範性が高まるということは、それはそれでいいと思うんですけれども、実際に役所側の相談体制みたいなもの、受け入れ体制、これについてしっかりとやる仕組みをつくる必要があるのだろうというふうに考えております。
今回、賃金の決定方法を合わせるということについては、既に企業の取り組みが進んでいるところがあります。法律で範囲を限定するのではなくて、行政として、その普及、促進を図っていく施策が必要ではないかというふうに考えますが、そういう取り組みを強化する考えはあるのでしょうか。
■大谷参考人
改正法案に規定しております均衡待遇、これを確保していくための措置は、これは法律で一律に強制することができるのは最低限のものにすぎないというふうに考えておりまして、御指摘の、賃金の決定方法を通常の労働者と合わせることに限らず、個々の事業主がより進んだ雇用管理を行っていただくことが望ましいということは言うまでもないところでございます。
厚生労働省といたしまして、短時間労働援助センターによる助成金の支給を通じて支援をしていくということ、また、先進的な雇用管理の事例について今後もできる限り情報提供に努めてまいりたい、そういうふうに考えております。
■西村(智)委員
特に中小企業などでは、考え方は理解できてもなかなかその実施が難しいという面があるんだと思うんです。その特段の指導、今、短時間労働援助センターを通じて助成金というような答弁もありましたけれども、私はやはり、全国に津々浦々、労働局の中に例えば専門官を配置するなどをいたして、しっかり政府として取り組む、そういう体制づくりが必要ではないかというふうに考えておりますけれども、現時点で政府は、そういう仕組みづくりといいますか体制づくり、きちんと専門官を配置するというようなことを含めて、やるおつもり、意欲があるのかどうか、その点について伺います。
■大谷参考人
今回、もし法律を成立させていただきますれば、これは先ほどお話のあった、中小企業への指導のみならず個別の相談への対応を含めまして、重要な業務が生じるというふうに考えておりまして、これは各都道府県の労働局の中で、雇用均等室のみにとどまらず、その局としての対応を進めていきたいというふうに考えておりますし、その専門官の配置について、全国配置等の議論についてはまだ確たるものは申し上げるところではありませんけれども、研修等を含めて、その担当する職員の能力あるいは意欲なりについて、その体制の強化を進めていきたいと考えております。
■西村(智)委員
今回の改正法では、いろいろ第8条を中心に大変多くの問題点がある。私たち民主党の案は、本当に均等待遇、これは何度も申し上げておりますけれども、完全にイコールにするという意味ではありません。
言ってみれば、職務の実態に応じた比例的な均等待遇というものを目指しているわけでありまして、これまでも議論になってまいりましたように、例えば慶弔休暇もないといったパート労働者の実態は広く知られております。慶弔休暇やあるいは通勤手当というようなものは、これはもう賃金の一部だということからいたしますと、これがないというのは明らかに賃金格差ということになってまいりますし、そこのところがしっかりと解消していけるような政府案には今回なっていないわけですね。
そこのところを私たちは問題にしているわけでありまして、これからの働き方、恐らくもっともっと多様な複雑なものになっていくんだろうと思います。そういったことを見越して、私たちはきちんとした法案を提出しておりますので、ぜひ、これをまた契機として均等待遇に向かって進んでいきたい。政府の方からもぜひ十分な取り組みをしていただきますようにお願いをし、私の質問を終わります。
ありがとうございました。