■西村智奈美委員
民主党の西村智奈美と申します。
きょうは、4人の参考人の方々、この委員会にお越しいただいて、本当に貴重な御意見をいただきましてありがとうございました。今回の法改正にしっかりと生かしていけるように、私たちもまた、きょういただいた御意見を整理し直しまして取り組んでいきたいと思っております。本当にありがとうございます。
先ほど民主党の高井委員の方から、法改正についての大きな論点と言われておりました立ち入りの問題とかについては質問がありましたので、私はそれ以外の部分で、少し大きな話になるかもしれませんけれども、幾つか質問をさせていただきたいと思っております。
先ほどの高井委員の最後の方の親権のお話のときに、これは私も実は常々感じておったところなんですけれども、いわゆる親権というものの質でありますが、やはり日本では、民法の規定も非常に古いということもありまして、子どもの権利条約の視点からしても、少し見直しの時期に来ているのではないか、こういうふうに感じております。
親と子の関係というのは、時代によってもその意味合いは変わってくるものだろうというふうに思いますけれども、互いに尊重し合いながら子供が親から監護される、そういう関係だけではなくて、例えば、子供が意見を表明することができる、そういう関係でもあってほしいと思うわけなんですけれども、平湯参考人、最後の方でそのような親権の話について御意見を述べてくださいました。今後、この親権の質的な転換と申しますか、これを少しやはり日本でも議論として起こしていく必要があるのではないかと思うんですけれども、平湯参考人の質的転換に向けての、具体的なイメージと申しますか、御意見などありましたらお伺いしたいと思います。
■平湯真人参考人(日本子ども虐待防止学会制度検討委員会副委員長)
今の点について思っていることを申しますと、民法の親権の条文だけを眺めていじくっていても、なかなか生産的ではないなということも思っております。
民法の表現をまず離れて、子供が親あるいは周りの大人に対して何を求めることができるのか、周りの大人は何をしなくちゃいけないのかということで考えていったときに、1つのキーワードになるかと思いますけれども、子供の成長発達権。子供の基本的な権利といいますか、いろいろ権利があるという言い方はできると思いますけれども、一番基本的なものは、この社会の中で自立していけるように成長していく、発達していく権利というのがある。その権利というのは、自分一人でできるわけじゃなくて、周りの大人に援助してもらうことが予定されている。子供は成長発達していくことを援助してもらえる権利があるというふうに考えるべきではないだろうかと思っております。
この自立というのは、ふだんの普通の家庭では、なかなか、子供が20を過ぎても家にごろごろしていることもあるわけでございますけれども、私のうちもそうなんですが、これが例えば養護施設の子供たちということになりますと、もう15で高校に入れなければ出ていかなきゃならない。あるいは、高校に入れても中退してしまう。卒業しても大学には行く保証はない。こういうことで、経済的な自立の困難というのが非常にまずあるわけですけれども、経済だけに限らないで、小さいときから周りの大人と信頼関係を持てるような、愛着関係と申しますか、そういうものがなかなかできないために、人生に自信がない、肯定感が持てない。この辺はさっきの柏女先生の方で社会的養護の問題として口述されたところではありますけれども、自分が尊重されたという実感が持てない。
逆に言いますと、これは、侮辱といいますか、例えば、おまえは施設の子なんだから高校に行けないのはしようがないんだと言われることによって非常に傷つく、そういう傷つき体験というものが、子供の成長にとって、自立の気持ちをつくっていく上で非常にマイナスになる。そういうところで、実は本質的に大人が子供にしなくちゃいけないのは何なのか、子供にとって生きていく自信をつけることではないのか。
そうなってくると、これが一般家庭の中でも、例えば、あんたは100点をとってこれなかったじゃないかと言って、ふんと無視するというふうなこともあるわけですが、そういうことが実は一番親としてやってはいけないことをやっているのだ、殴ることはもちろんとして。
今子供の自立の成長のために何をやらなきゃいけないかということを、広く社会の中で、そういうところから議論していくことによって、実は、親子関係ひいては親権というのは何なんだろうかという議論ができていくのではないかと期待しております。
長くなりまして済みません。
■西村(智)委員
ありがとうございます。
それでは、続きまして栗原参考人にお伺いしたいんですけれども、埼玉県では非常に先駆的にいろいろなお取り組みをしておられますが、いわゆる48時間ルールですけれども、これはやはり、手厚いスタッフ体制と申しますか、それがあって初めて生かされる、そういう仕組みなのではないかと思っております。
私たちの方でヒアリングをしておりましたときに、例えばこの48時間ルールをすべての自治体で導入することの有用性ということについて議論があったときに、48時間という制限が決められると、御承知のとおり各自治体では非常にばらつきがあるわけでありまして、むしろそのことが仕事のさらなる多忙につながっていったり、職員の方々のオーバーワークにつながっていく、そしてまた本当に必要なところに手が回らない、そういうおそれが生じるのではないか、こういうお話が実はありました。
栗原参考人に、自分で答えがわかっているようなことで質問しているような気もするんですけれども、この48時間ルールが本当にきちんとワークするための条件、それは何なのか、実際に携わっているお立場から御意見を聞かせていただければと思います。
■栗原直樹参考人(さいたま市児童相談所長)
確かに、導入した直後は、児童相談所の職員は疲弊しました。相当大変だったわけです。2人の職員が出かけている間、上の管理職も相談所で待っている、当然ですけれども、そういうことの繰り返しで相当疲れましたが、繰り返していきますと、まさにケース・バイ・ケースで、ちっちゃい子ですから、この場合には市町村の保健センターの保健師さんと行ってみようとか、保育所、学校に所属している子供であれば、当然、真っ先に連絡して、状況がわかりますので、対応の仕方も出てくるということです。
逆に大変だったのは、市町村等の関係機関の方々に児童相談所がそういう動きをしますよということを御理解いただくのが、先に大変であったということを覚えております。
相当年数を重ねて、件数もいわゆる数をこなしてきたという結果、各市町村の方々も、児童虐待といったら児童相談所はこういう動きをする、ではうちの方もこういった協力ができるでしょうということで、地域によっては若干のずれはありますけれども、御理解いただくことによって、相談所だけで動くのではなしに、大体2年目、3年目以降は、一緒に動くということで、結局人手は、相談所が2人でなしに、相談所は1人、まあ2人の場合もありますけれども、市町村の方と一緒に行くとか、保育所であれば保育所の方に直接見てもらって、すぐ相談所が行くにしても1人で間に合う場合があるとか、相談所がフルに稼働しなくても、御理解いただくことによって、情報共有から同じ動きができる。次には、当然、民間の民生児童委員さんとかそういった方々にも、情報提供をいただいたり、いわゆる見守り等協力いただくというふうに、だんだん現場のネットワークが広がってきた。
そういうことで、ある意味では、実践を重ねることによってそういったものができ上がったということで、それをうまく調整する児童相談所の児童福祉司、また話が戻ってきますけれども、社会福祉士とか、そういったいわゆる福祉の専門職であった方が、やはりそういった知識を持ち、地域コーディネートをするということでは、結果としてうまくいったのではなかろうかなと。
あと、ややずれますけれども、埼玉県の特徴として、できませんという自治体の方もいらっしゃるんですけれども、埼玉県は、どんなところでも、不便なところでも、一番遠いところで車で2時間ですね。秩父の山奥でもしそういったことがあっても、担当している熊谷の相談所は、車で2時間で行けるということで日帰りができるというような、秩父の山間地以外は大体平らなところですから、実際の活動がしやすかったということも、1つほかの地域と違っていたのかもしれません。
以上です。
■西村(智)委員
ありがとうございます。やはり実践を通じて連携を深めていくということなんだろうとお伺いをいたしました。
笹井参考人にお伺いをいたしたいんですけれども、この間、公務員制度改革の中で、いわゆる現場の公務員削減がかなり起こっているというふうに承知をしております。これまでも減らされてきたし、恐らくこれからも減らされていくだろうというときに、やはり私としては、事子供のことに関しては、ここは効率ではかるのではなくて、きちんとその十分な量かつ質を確保していく必要があるんだろうと考えております。
ですが、今公務員制度改革の方で議論されておりますのは、とにかく総額、総定員数の削減ということで、この中で、要するにどうめり張りをつけていくか。どこを重点に地方行政というのはこれから進んでいくのか。法律はこうやって、市町村の責任というものが非常に重くなってきているんですけれども、現場でそういった公務サービスに対応する人員というのは逆に絞られてきている。このことについて、笹井参考人は現場からどのようにごらんになっておられますか。御意見がありましたら伺います。
■笹井康治参考人(沼津市役所子育て支援課こども相談係長兼主任社会福祉主事)
件数は増加しているわけですから、当然、対人サービスなので、人がいないと対処していけないという問題はあります。
それと、今、この間の施策が、児相がやっていることと市町村がやっていることが、何か非常に二重というかダブっている部分があったり、やはり、初期調査を市町村がやったり、通告も受けて調査をしたりという形で、1つは、人が減ってくるであろう中で、いわゆる調査だとか、それからリスクアセスメントだとか、そういったところをきちっとやる専門の機関があって、市町村の部分は、例えば処方せんがあれば、そこに応じた形でのサービスを入れていくような形について、やはり考えていかなきゃいけないんだろうなというふうに思います。
人の問題については、減らすどころの問題じゃなくて、本当にその専任、自分は児童虐待に対応しているんだと自覚している人が市町村の中にどれだけいるかということ。その人をまず1人は絶対やはり確保しないと、これだけ仕事をおろしてきても難しいと思うので、その中核になる人が、足らない部分を、要保護協議会だとかネットワークを使って、どんなふうに考えていくのかということはあろうかと思うんですけれども、本当に、今はまだ核になる部分がなかなかでき切っていないので、そこの確保は逆に絶対必要じゃないのかなというふうに思います。
■西村(智)委員
特に小規模の自治体になりますと、ほとんど兼務ですよね。それこそ、すき間とは余り言いたくありませんが、新しく出てきた、例えば男女共同参画ですとか児童虐待ですとか、そういった担当というのを置きなさいと言われても、結局みんな1人の人のところに集中してしまって、身動きがとれなくなっているという状況は、私も時々目にいたしますけれども、まさにその問題にしっかりと対応して、専任の職員を置くということの重要性、必要性を今御指摘いただいたというふうに考えております。
幾つかまだ聞きたいことはあるんですけれども、柏女参考人に今の流れでお伺いをいたしたいと思いますが、先ほど平湯参考人が、例えば、条例でこういった児童虐待に対しての支援体制、これについては定められておるし、また青森県で非常に先駆的な取り組みがされている、そういうお話がありました。しかし、一方で、いわゆるナショナルミニマムと申しますか、やはりきちんと最低限の基準を定める必要はあるのではないか。
これは、今地方分権といいますと、何から何まで地方に責任をおっかぶせるという形で進んでいる。それは、私は、自治体にそれなりに責任感を持ってもらうということは非常に重要なことだと思っておりますし、また、地域のことは地域で決めるというのは非常に大事な原則だと思っておりますけれども、しかし、この児童虐待防止という点については、日本ではまだ取り組みの歴史が浅い、しかも、スタートラインから非常におくれていたものにとにかく対応をということで進んでいかざるを得ないわけでありまして、そこはやはりしっかりと、いわゆるナショナルミニマム的な基準なりをつくる必要があるのではないかと考えておりますけれども、このあたりについての参考人の御意見を伺います。
■柏女霊峰参考人(淑徳大学総合福祉学部教授)
ありがとうございます。
ナショナルミニマムをつくることは非常に大事なんですが、その前に、虐待防止のための全体のグランドデザインがまだできていないのです。できていない段階でナショナルミニマムをつくっていくということは、例えば、児童相談所は今非常な肥大化を招いています。児童福祉司をどんどんふやしていって、児童相談所という県の行政が肥大化をしていっているというような形で本当にいいのだろうか。市町村は何をすべきなのか、県は何をすべきなのか、公務員は何をすべきなのか、そして民間は何をすべきなのか。その全体のグランドデザインを描いた上でナショナルミニマムを定めていくべきではないだろうかというふうに私自身は感じています。
それから、もう1つ、介入サービスの話ですが、介入サービスは、やはりこれは公務員が担っていかなければならないので、市町村が立入調査、介入をしていく場合には、これは公務員を確保していくということは、私はそれも大事なことだと思うんですが、小さい町村ではなかなか難しいという場合がありますので、そういう場合には、例えばの話ですが、消防署などのように幾つかの自治体が集まって、いわば子供介入隊みたいなものをつくって、そしてそこがやっていくというような仕組みなども検討されていいのではないかというふうに思っています。
以上でございます。
■西村(智)委員
もう少し時間があるようでありますので、分権とのかかわりで、平湯参考人に、柏女参考人と同じ趣旨の質問になりますけれども、このナショナルミニマムの点について御意見があればお伺いいたします。
■平湯参考人
ナショナルミニマムも非常に大事だ、グランドデザインも大事ですがナショナルミニマムも大事だということであると思います。
5万ないし8万人に1人という児童福祉司の数も、長い間いろいろな声が実って、やっとそこまでいったわけですけれども、まだこれで足りるわけではないということ。それで、青森県の事例を紹介しましたのは、自治体であってもここまでできる、ここまでやることによって、防止という活動の到達目標といいますか、例えば一時保護を減らすことができるというような材料として申し上げましたので、ナショナルミニマムはまだまだ必要であるというふうには思います。
■西村(智)委員
終わります。ありがとうございました。