■西村智奈美委員
民主党の西村智奈美と申します。
きょうは、参考人の皆様、お忙しいところ大変ありがとうございます。貴重な御意見を拝聴いたしました。とりわけ現場で教育にかかわっておられる皆様、かかわってこられた皆様からの発言でございましたので、本当の教育の真髄は何か、お一人お一人感じておられること、考えておられること、多様なんだなというふうにも思いましたし、また、お一人お一人が信念を持ってそれぞれの教育活動に取り組んでこられたということを知ることができました。
今回の教育基本法についてでありますけれども、私たち民主党の立場といたしましては、やはりもっと国民的な議論を起こしていくべきではないかというふうに考えております。教育は国家百年の大計とも呼ばれておりまして、だれもが教育というと関心のあるテーマだと思います。だれでもが教育を受けますし、また、だれでもが教育の主体となり、客体となり得るわけでありますので、しっかりと私たち国民のものとしてこの教育基本法をとらえていけるように、もっと議論をしっかりやるべきではないかということを申し上げまして、個別に参考人の皆様に質問をさせていただきたいと思っております。
まず、田村参考人と梶田参考人に同じ質問でございますが、例の三位一体改革で、義務教育費の国庫負担率の削減と、そしてまた私学助成の補助対象リストからの削除と申しますか、一連の流れがございまして、非常に教育行政はお金をめぐって大きな議論がここ数年間あったわけでございます。
渡久山参考人のお出しいただいた資料を使わせていただいて大変恐縮なんですけれども、この資料にまさに私は端的にあらわれているというふうに思っておりまして、日本のGDPに占める教育費の割合は減ってきているわけでございます。
イギリスのブレア首相が、一に教育、二に教育、三に教育だというふうに演説をされた。あれを本当に私は胸が震える思いで聞きましたけれども、日本においては、残念ながら、一向に教育にかけるお金というのは減少している状況にあるわけでございます。
私たち民主党は、やはりここはしっかりとナショナルミニマムとして国が教育にこれだけ責任を持つということを明確にするために、私たちが提案しております法案の中で、GDPに占める教育費の割合を毎年報告するということを明記させていただきました。
依然として国際社会の中では、国際規約、A条約ですか、ここで、日本が批准しておる条約なんですけれども、高等教育の漸進的無償化についてはまだ留保しているわけでありますけれども、お二方から、この民主党の条文に対する率直な評価、これをまず最初にいただきたいと思います。
■田村哲夫参考人(学校法人渋谷教育学園理事長、日本私立中学高等学校連合会会長)
ありがとうございます。
民主党の日本国教育基本法案にかかわって、私学助成についてのことで限定してよろしゅうございますか。(西村(智)委員「条文について」と呼ぶ)条文についてでございますか。
条文についての文章あるいは内容について、事細かく意見を言うというのはちょっと控えた方がいいんじゃないかなというふうに率直に思っております。
基本的な考え方については、政府案と民主党案にはそう大きな違いがないというふうに私ども受けとめているというのが率直な意見でございます。
先ほど、三位一体改革あるいは私学助成の扱い等についての議論が出たということについての御言及がございました。私ども当事者として非常に苦労をしたわけでございますが、やはりその体験の中でも、振興基本計画というものを持って、それが世の中に理解された上でこういったお金の問題を議論するということがないことが非常に歯がゆい思いをしたという経験がございます。
日本の国の教育というのは、どうやるかで確実に将来に影響が出ることなんですね。ただし、すぐには出ないんです。ですから、基本法の議論も、今国会で決まらなくても別に世の中は変わらないかもしれないんですけれども、しかし、確実に何年かすれば何らかの形の影響は出るだろうというふうに私どもは見ております。
要するに、教育についての考え方を、今、先生は国民的な論議を広げるというふうにおっしゃられました。実は私の教育改革国民会議からの議論に参加してきた経験では、もうある意味では、民意といいますか、民意は尽くしているなというのが率直な実感なんですね。地方へ何回も行って、私も参りましたが、地方の中教審をやってみたり、公聴会みたいなことをやってみたりして、いろいろな御意見を聞いて、大体その結果出てきた案が中教審の答申なんです。その答申が出されてから、もう3年ぐらいたっているわけで、一種のたなざらしみたいな状況になっていますので、もうそろそろ、まあ大事かもしれませんけれども、そろそろ結論を出すというか、立法府としての意見を明示するという姿勢は示してもらえないものかなというのが率直な感じでございます。
それから、お金の問題に関しては、やはり将来的な基本計画というものを明示された上での議論でないと、確かに今ほどかけていいのかという議論もあるわけですから、そういう意味では、ではそれを今かけないと将来こういう影響が出ますよということをちゃんと明示して、みんなが理解するということが非常に大事ではないかというふうに考えるわけです。
ですから、単にお金のことだけで、あるいは補助金を、あるいは教育全体にかけるお金をふやせと言うだけでは済まない部分があるので、その意味では、この基本法の中に、民主党案の中にも提案されておられます振興基本計画、つまり、長期にわたって、単年度予算ではなくて長期にわたって教育をどうするのかということをやはりやって、計画を立てて、それを公にして、世の中の人が理解をした上で、お金の問題を議論する、こういう姿勢になっていただかないと、ただ多ければいいみたいな、そんな子供みたいなことを言ってもしようがないですから、その辺のことはぜひ御理解いただければと思っております。
ありがとうございました。
■梶田叡一参考人(兵庫教育大学学長、中央教育審議会委員)
それでは、私の考え方をちょっと申し上げますと、まず、民主党案が19条で書いておられること、本当に私、大賛成であります。ただし、これではまだ足りぬ、足りない。というのは、GDPとか国民総生産の額だけで言っちゃいけないんですよ。日本は不景気になっても出すものは出さぬといかぬのです、教育には。だから、これはマクロ過ぎると思っておりますが、まずここから押さえていくという。
というのは、日本はやはり、今教育に出すお金が先進諸国に比べて恥ずかしいです。皆さん、私は今、教員養成の大学に行きましたから、その前から行っているんですけれども、小学校や中学校、いろいろなところ、各地へ行きます、全国行きます。皆さん、公立の小学校や中学校の図書室に行ってみてください。今、朝読書をやっているはずなんだけれども、図書室に新しい本がないんですよ。あるいは教材も今ほとんど買えなくなっています。どうしてかわかっていますでしょう。義務教育費国庫負担法から図書費とか教材費を外して一般財源にしたからなんですよ。だから、国からは都道府県に図書費相当分あるいは教材費相当分が行っているんだけれども、行政の優先順位に沿って、はっきり言うとかなりがピンはねされて市町村に行く。そして、市町村でまた優先順位に基づいてかなりがピンはねされて個別の学校に行くわけですよ。そういう具体の状況をどうするかということを本来は考えなきゃいけない。ですから、総額の問題はもちろん大事です。だけれども、同時に、きめ細かくやっていかなきゃいけない。
それから、今ついでに申し上げますけれども、教員の給与を削ればいいみたいな話がありますけれども、これは欧米は昔から教員の給与が低いんです。ただし、儒教文化圏、中国文化圏はみんな教員の給与が高いんです。教育の日までつくるんです。これは、社会の中のどの部分の人材を教育に向けるかという大きな考え方が違うからなんです。どこどこではどうだという「ではのかみ」がいっぱいおりまして、イギリスでは、何とかでは、こう言いますけれども、日本ではを考えなきゃいけない。日本ではということ。
そういうことからいうと、私は、軽々に財政的な問題だけから教員の給与費だとかあるいは数をということだけではなくて、まさに教育論としてやっていかなきゃいけない、こういうふうに考えております。
そういうことを前提に考えますと、私は、19条で書いてあることは、本当はたくさんこれにプラスアルファしてほしいポイントがあります。そして、しかし基本法だから、基本法はなかなかそこまで細かいことはやれないから、まさに国会の承認を得て、教育振興基本計画あるいは教育振興基本法をつくるということをやってほしいと思います。
また、この民主党案の19条から後の4項、5項、6項ぐらいのところは、実は地教行法、地方教育行政の組織及び運営に関する法律に、これは、今のものが、この辺が薄ければ十分に書き込んで、実際にこれをやっているんですよ、地方議会に詳細な報告があり、もうはしの上げおろしまで地方議会では今やっているわけですよね。
ですから、そこのところをどういうふうにやったらいいのかということを先ほど私は申し上げましたけれども、先生一人一人の責任、学校一つ一つの責任、設置者である教育委員会あるいは学校法人の責任、そして国の責任ということが明確になる形でやはり書き分けて、これは個別の法律の改善あるいは改正という形でむしろ対応していただいた方がいいんじゃないかなと私は考えております。
■西村(智)員
ありがとうございました。
西澤参考人にお伺いをいたします。
西澤参考人はサイエンス分野で御活躍されておられるということですけれども、このところ、女性と科学技術という関連でいろいろな著作が出ておると承知しております。ヨーロッパ、EUなどでは、女性の科学者をいかに育てていくか、いかにふやしていくかということが大きなテーマになっているようでありますし、日本の中でも、男女共同参画基本計画の中でそのようなことが、女性の科学研究者と申しますか、数学、工学、情報科学、その他もろもろ、私たちが高校時代に呼んでおりましたところのいわゆる理系の分野にどうやって女性の参画をふやしていくかということが大きなテーマになっているわけですけれども、残念ながら、まだふえてきてはおらない。これは学長でもいらっしゃるのでよく御存じのことだと思います。
一体、どういう取り組みが今後求められていくというふうにお感じでしょうか。
■西澤潤一参考人(首都大学東京学長)
今、少し神経質になっているといいますか、例えば委員会に女性の委員を何人入れろなんということを決めるのはむしろ逆効果ではないかというふうに私は考えております。
大体それは上の連中が、周辺もそうでございますけれども、公平な目で見て、男と女とは関係なしに委員を選ぶとか、もちろん、女性の立場というものがありますから、そういうときには意識的に入れることも必要でありますけれども、今言われているように総量規制をするというようなことは、むしろ、かえってマイナスではないかと思います。
それから、ちょっと差しさわりがあるかもしれませんが、女性の体の中には子供を産むための道具がいっぱい入っておりますね。それから、今ここにいらっしゃる先生方は大体御同意くださると思うのですが、教育をする、子供を産んで育てるということは、これは人間にとっては、人間だけではございませんが、大変な大事業であると思います。怖くてできないぐらいの恐れを持つような仕事だと思うんですが、そういう意味からいって、私は、女性に対して、そういう仕事をしてくださるだけの適性が非常にあるんですから、それをやはり頭に置いておく必要がある。
つまり、男の社会に出てくるなと言う気は私は全くありません。そちらは非常にクールに判断をすべきでありまして、しかし、とにかく、今申しましたように、どんな有能な女性でもやはり子供を産んでほしいわけでありますから、特に有能な人を産んでほしいですから、そういう方々のためには、幾らか社会のルールを公平から曲げて女性に少し有利になるような取り扱いをすることも必要であるというふうに考えているわけであります。
大変お気に召さないお返事かもしれませんが、私としては、余り男だから女だからということを考えずに公平にやるということが、これからいい関係をつくるために一番重要なことだと考えております。
以上です。
■西村(智)員
渡久山参考人にお伺いしたいと思います。
時間がちょっと厳しくなってまいりましたので予定していた質問ができないようでありますけれども、渡久山参考人、中教審の答申で7つの視点が提示をされております。
「1信頼される学校教育の確立」というところでありますけれども、渡久山参考人は中教審の委員でもあられたと承知をしておりますが、私は、信頼される学校教育の確立という項目が第一番目に挙がってきたということは、やはり重視をしなければいけないことであろうと思っております。今、学校教育の現場も、いじめ、不登校を初めいろいろな問題が指摘をされておりますけれども、こういった状況の中で、信頼される学校教育の確立のために最も重要なこと、これは何だというふうにお考えでしょうか。
いろいろ何か事件が起きますと、すぐに学校の責任になったり教師の責任になったり、あるいは親の責任になったりということがあるわけでありますけれども、最も大切なことは何とお考えか、そしてまた、そのことが今回の教育基本法の改正案にどの程度反映されているというふうにお考えか、伺います。
■渡久山長輝参考人(財団法人全国退職教職員生きがい支援協会理事長)
私は、中央教育審議会の審議の中でも申し上げたのですけれども、今、日本の教育、特に義務教育の関係で申し上げますと、学習指導要領というのはすばらしくできているんですね。ですから、それを踏まえて検定教科書も、何かというと、非常に満足のいくレベルでいっているんです。問題は、それなんかが子供たちの中でどれくらい定着し、あるいはまた、発展的に応用能力等を含めて教育効果が上がっているかというと、その部分が非常に乖離しているんですね。
ですから、今、日本の教育、特に義務教育の段階での問題点は、やはり学習指導要領と、それから実際子供たちの持っている学力を含めた実力との間に、教育力との間に乖離があるということですね。このことは何かというと、今議論になっているドゥーといって、要するにそれぞれの学校に任せて、もっと自主的に教育活動を進めようという考え方が中教審でも議論をされているんですけれども、具体的に、学校現場に行きますと、例えば子供数は40人学級ですね。先ほど申し上げましたように、OECDの中でも非常に劣悪な状況にあります。
ですから、先生方は非常に多忙なんですね。その多忙の中に教材研究をしあるいは生徒指導や生活指導をし、あるいは部活動をしていく。こういうことをしていく場合に、十分に学習効果を上げるようなサービスというのができていない、できないというのが現状じゃないかと思いますね。
ですから、既に文部科学省も調べているんですけれども、先生方の超勤というのは週14時間もあるというんですね。これもありますし、そういうようなことで超勤もあるというようなことですから、私は、今度の義務教育費国庫負担法のところでも申し上げたのですが、やはり義務教育に対する国の条件整備の責任というものは十分に果たしていかなくちゃいけないだろう、こういうように思っています。ですから、そういう意味では、もっともっときめ細かな財政的な支援というのを国が責任を持ってやってほしい、こういうように思います。
■西村(智)員
ありがとうございました。
最後に、少しまだ時間があるようでございますので、同じく渡久山参考人に伺いたいと思うんですけれども、この教育基本法の議論の進め方、プロセスについて、どんな御感想をお持ちでしょうか。
私たちの考え方は、冒頭私が述べさせていただいたとおりなんですけれども、やはりここは、教育基本法を本当に自分たちのものにするために、教育改革国民会議あるいは中教審の中での議論はもちろんですが、その後の法案化までのプロセスは、私たちには全く見えておりません。こういったことを踏まえてどのようにお考えか、伺います。
■渡久山参考
一つは、中央教育審議会でも真摯な議論をいたしましたけれども、必ずしもすべての項目について完全な合意が得られていたわけではないんです。ですから、審議が十分だったかと言われると、必ずしもそうではないというところもあります。
だがしかし、答申をした以上、これに対して法案化されるというのはもちろん当然の成り行きでございますが、ただ、形式的に言いますと、それは、当時の文部大臣に答申したのであって、与党にやったわけでもないんですね。しかし、最終的には与党と政府が合意を得なければ、どうせ法案にはならないということもありますけれども、政府の前に与党が議論をしてきたというような背景もあるわけですね。それも少し密室とあるところは批判されるんですが、ほとんどそれは国民的には明らかになっていない。
中教審は、傍聴を含めて非常に明らかに議論をしてきました。だがしかし、その後、与党の議論は、それでもなかなか、選挙もあったり、いろいろなこともあっただろうと思いますが、必ずしも、そういう面が一つ、国民的な合意を得ながら与党案がつくられてきた、あるいは政府案がつくられてきたという感じのしないところはあると思いますね。
民主党もやはりそれを受けたような対案を出されているわけですから、今後の問題として、果たして今のままで、両方どっちでもいいですから、強行採決をしていくというような形になっていっていいのかどうかということについては、極めて疑問に思っております。
ですから、採決すれば、多数は与党側が非常に多数ですから、すいすい通るという感じもいたしますけれども、幾つかの問題点をそれぞれ持っていますし、それより一番大事なことは、それぞれの党だけじゃなくて、国民的な合意を得るようなすばらしい教育基本法をつくっていただきたい、これを心から切に望みたいと思います。
以上です。
■西村(智)員
後ろの中教審の委員だったお二人の先生もうなずいていらっしゃっています。ありがとうございました。
以上です。