■西村智奈美委員
民主党の西村智奈美と申します。
きょうは、6人の参考人の皆様、お忙しいところ御足労いただき、また大変貴重な御意見をお聞かせいただきまして、ありがとうございました。
20年ぶりの均等法の見直し、本格的な見直しでございます。大変多くの働く女性たちが、大変大きな関心を持ってこの法改正の審議を見守っております。ぜひ、中身の濃い議論をしていき、そして、本当に差別解消につながるような法改正を行いたいというふうに思っておりますけれども、いずれにいたしましても、審議時間が大変短いという中で、限られた中ではありますが、きょういただいた御意見を生かして十分議論していきたいと思っております。
さて、私たち民主党は、今回の法改正、例えば両性に対する差別が禁止されたことですとか差別禁止の対象が拡大してきたこと、こういったことから、評価する点もございます。しかしながら、今の雇用状況、働く人たちの状況を見るときに、本当にこの法律が世に送り出されて差別の解消にどのくらい貢献できるのだろうかということを考えたときに、やはり不安、懸念がありまして、民主党、社民党、共産党、そして国民新党共同で、修正案を提出させていただきました。
そして、あわせて、均等法がきちんと運用されましたときにはパートや有期契約などの問題も解消されるというふうに思いますけれども、しかし、パートはパート法でという答弁などもあり、それだったらということで、パート労働者法の見直しも提案をさせていただいているところでございます。
まず、中野参考人に2点お伺いをいたしたいと思います。
先ほど、差別の解消は労使一体で取り組むべき課題であるというふうにおっしゃいました。私も全くそのとおりであると思います。差別は人類社会の中であってはならないことでありますので、すべての人が当事者として解消に向けた努力をしていくことだと思います。しかし、この20年間というもの、やはり当事者が、女性たちが頑張ってきたではないかと、振り返ってみるとその足跡が私たちにははっきりと見えるわけであります。
そういったことを踏まえて、今回、法改正の中で、間接差別の法理が導入される。なぜこの国には間接差別の法理が必要なのか、なぜそれを用いなければ差別を解消することができないのか、このことを伺いたいと思います。
■中野麻美参考人(弁護士)
私は、意見の中でも申しましたけれども、差別というものは時代の変化とともに形を変えて生き続ける。それがいけないことだというふうに法律で禁止されると、職場の中では、そういった外形をとらないで今までの格差というものを温存したり、あるいはもっと拡大しなければならないという要求に駆られる、そういった雇用管理が今まで職場の中で広がってきたのだろうと思います。
例えば、今まで男女別の賃金体系をとっていたところにコース別雇用管理を導入する。そうすると、その処遇の違いの根拠を、将来の幹部候補として期待しているかどうか、それから全国転勤というものを織り込んでいるかどうか、そして、職務は基幹と補助、そのように分けて、この人は基幹業務、この人は補助業務というぐあいに、言葉をかえてその格差を引き継ぎ、そして女性たちの処遇を固定化してきました。
しかし、この処遇というのは、基幹と補助という仕事の違いというのは、まさに男女の違い以外の何物でもなかったのです。そして、全国転勤が可能であるのかどうかと問われても、転勤しない男性たちはたくさんいる中で、女性たちだけが、その可能性があるのかどうかということだけで振り落とされてきました。そして、将来の幹部候補として期待されるのかどうかなんというのは、勤務年数が一般的に女性は短いから期待できないということで排除する口実だったわけです。このような基準というものが、パートという世界では、労働時間が短い、仕事と家庭の両立というものを図る、企業との結びつきの弱い労働者であるということを理由にして、低賃金の根拠とされてきました。もちろん、全国転勤ができないということも根拠になってきたわけです。
このような、性とは書かれていないけれども、基幹と補助の仕事の違いや、全国転勤ができるかどうか、期待度の違いといったような、言葉をかえた基準をもって差別をされてきた、温存されてきた。しかし、均等法はそれに何も手をつけられなかったわけです。この理由は何かといえば、性中立的な基準のように見えても実質的には男女を差別しているのではないかということに対して、強力な行政権限を発動してこれを解消させていくという制度を持たなかったからでありまして、この点は、間接差別というものを排除していくきちんとした法律上の根拠が求められた最も強い要因でした。
そして、国際社会からも、こういった差別を取り除いていくということを持たない日本において、最も性役割が根強く、改善されていない、賃金格差も、国際的に見れば、主要国の中でも非常に大きくて、極めて恥ずべき状態にあるということが指摘されながら、間接差別の禁止というものを求められてきた。これも女性差別撤廃委員会の中での勧告が示しているものでありまして、そういった諸要素が間接差別というものを法制化する必然性を持っていたというふうに思います。
■西村(智)委員
ありがとうございます。
中野参考人に引き続き伺いたいと思いますけれども、この法律がしっかりと差別解消のために本当に機能的に役立っていくために、懸念される点が幾つかある。例えば、先ほどの妊娠、出産を理由とした不利益な取り扱いについては、正社員の女性に対してはそれは適用されるが、パート、有期契約の人たちは除外されるおそれがあるということなどのお話がございました。
この法案の審議の中で、最低限これは担保していかなければいけないと思っていらっしゃる点について伺いたいと思います。
■中野参考人
雇用多様化が女性労働の中に著しく進展してまいりまして、実は使用者と労働者との単純な雇用契約関係によっては割り切れない関係のもとで働いている人たちがふえてきております。場合によってはインディペンデントコントラクターというような、請負、委託で働く、労働法による規制を全く受けないという形で、実質的には使用者に対して労働を提供するという形で働く人たちもふえてきています。
このような人たちが果たして性差別から自由な形で労働を提供しているのかといえば、そうではありません。逆に、例えば派遣労働の世界では差別が強化されてきているのではないかと思える相談事例があります。例えば、事前面接を通じて容姿であるとかそれから女性的であるかどうかという差別的な選別というのがまだまだ強く残っていまして、このような場合に、派遣先に対して均等法に基づく差別の禁止規定というのは適用にならないとされているわけです。
新しい均等法というのは、新しい時代に適用されるような形で差別の禁止を徹底させていかなければならないわけですけれども、雇用多様化に対応して、均等法がこれらの労働者にも十全に差別禁止規定の利益を受けることができるように、きちんとした運用がなされていくべきだ、また、そのようにきちんと改正されていくべきだというふうに思います。
また、間接差別につきましても、3つの事例に、基準に列挙されたものに限って行政指導を行うとされているところでありますけれども、例えばパートについて、酒井参考人が発言されましたが、労働時間のあり方というのは、これは諸外国で見れば、性役割の根強い社会の中では男女によって格差を生じさせるという最も典型的な基準とされているわけです。
こういったものがそもそも雇用多様化の要因であり男女間格差をもたらしてきたものであるとすれば、これにこそ差別ではないのかという検証のメスを入れなければならない、こういったところが非常に大きな課題になっていると思います。
ぜひこの点について確認をしていただきたいというふうに思います。
■西村(智)委員
ありがとうございます。
間接差別については、省令の中で3点だけ限定的に列挙されるということでありますけれども、今のお話を伺っておりまして、差別は常に形を変えていく、流動化していく雇用状態の中では、非常にやはり、間接差別という法理を生かす上でも、限定的な列挙は大変大きな懸念を残すということで、私たちとしてもしっかり修正案の御提案を皆さんにさせていただいているところでございます。
さて、龍井参考人に3点伺いたいと思います。
まず1点は、先ほど、間接差別の3点に限る省令における限定的な列挙について、コンセンサスが得られていなかったではないかというような御意見だったかと思うんですけれども、石崎委員に先ほど、時間をかけて議論してきたということをおっしゃいました。時間はかけているのかもしれません。しかし、最後のところで、その3点に絞るということにコンセンサスがあったかどうか、これは私は、ここのところを知りたいわけであります。
あわせて、建議の中では、間接差別の定義について明記をされております。しかし、法案の形になったときにそれが霧消してしまいました。このプロセスについてどのようにお感じか、お聞かせください。
■龍井葉二参考人(日本労働組合総連合会総合人権・男女平等局長)
ちょっと先ほどはしょってしまったんですけれども、川本参考人からの追加の御報告がございましたように、全くしなかったわけじゃない。ただ、参議院で指摘をされていますような、7つから3つにした、そこについてコンセンサスがあったというふうに説明されているので、それはございません。私どもはあくまで、限定列挙では困りますということを最後の建議段階でもお示しをしたということです。
ただ、問題はもう1つございまして、そもそも何が問題、特に、今回、違法ということですよね、その基準たるものがその時々のコンセンサスということで左右されるのか。やはりそこは、私どもは、もともと明確な価値判断の問題としてきちんと示すべきものであって、その時点その時点でそれが揺らいでいくとかということはむしろ逆にあってはいけないのではないか。そういう二重の意味での指摘をしたいと思っております。
それから、定義につきましては、これは多分、参議院段階の中では、どこかでその3項目を周知すると思うんですけれども、ただ、私どもも、建議の書きぶりのままの法文化ということを想定していました。ところが、実際には、第7条というのは、ぜひ国会審議の中でも英訳を取り寄せていただきたいと思うんですが、どこで区切っていいかわからないような文章になっていて、しかも、一番肝心なところが間接差別の問題というよりは省令の規定ぶりの説明になってしまっているという意味では、先ほどどなたかが御指摘になったように、本当にそれが国際的に通用する間接差別の説明になっているのかということは大変疑念だと思っております。
■西村(智)委員
ありがとうございます。
龍井参考人、いただいた資料の中で、A、B、Cとあります。Bについては「省令でまず3つに」ということでありますけれども、Aの部分とCの部分、これはどのように担保されることが望ましい、必要だというふうに龍井参考人御自身はお考えでしょうか。
■龍井参考人
まず基本的なスタンスとしましては、私どもは、今回の間接差別の規定に当たっては、先ほども申し上げましたように、限定列挙でなく例示列挙にすべきだというのがまず基本的なスタンスです。
ただ、御提示をしましたのは、参議院の議論の中で、北井局長が何度も、Aの、つまり限定されない間接差別を今回は決めました、それでCEDAWに報告をしますと。いや、だとしたら、その定義そして法理というものは全く限定されないものがありますと。しかし、行政指導の発動の範囲としては3点にしましたという説明があったものですので、そのチャートをお示しして、では、間のところはどこに行っちゃうのということで、わざわざ問題提起としてつくらせていただきました。
ただ、そのBの残りのところというのは、私どもとしては、もしも政府案で仮に行ったとする場合でも、ここについてきちんと行政指導の勧告、助言の対象になるというのが最低線だと思っております。
これもどなたかが御指摘になったように、いきなりそこで裁判かと。やはりそこに行くまでの間に、どれだけの手当てと、そして、職場から問題化していったときに、それがきちんと受けとめられて、これも間接差別に当たるんだということが、逆に言えば使用者側にとってもそれはとても大事なことであって、そういう積み重ねをつくっていく意味からも、北井さんの言う門前払いをしないところから、どこまで担保をするかというのをできる限り、繰り返しますけれども、指導、助言、勧告の対象にきちんと位置づけていただくということが最低線だと思っております。
■西村(智)委員
今回の均等法で男女双方に対する差別の禁止が盛り込まれたわけでございます。そういたしますと、今までは、男性の働き方に合わせて、それを基準として女性の働き方を見ていく、そういう意味での男女雇用機会均等だったわけですけれども、私たちは、この双方に対する差別が禁止されたという点から、やはりここは雇用平等を実現するための法律に本当の意味でその本質を変えていかなければいけないんだろう、このように考えています。
そこで、ワークライフバランスについて、龍井参考人、ぜひお聞かせをいただきたいと思いますけれども、労働組合は、私が拝見しておりますと、男性の社会といいますか、そういうところであります。そこにおいて、ワークライフバランスをこの均等法改正の中で議論することの意味というのはどこにあるのでしょうか。
■龍井参考人
これは本当に労働組合運動としても深刻に考えなくちゃいけないと思っていまして、実は、今準備をしております。我々連合の中での、つまり労働組合の中での、男女平等の参画の計画を新しくこれからつくろうと思っています。
それで、我々も、目標値としては、やはり役職員の比率というのは数値目標としては大事になる。ただ、先ほどの役職の話ではございませんけれども、今のままの男性組合幹部タイプ、これがふえてもしようがないんですよね。やはり、そうじゃない仕事の責任を持ちながら、そうじゃない新しいタイプの人たちがふえてくるような参画計画をどうつくるかというふうに考えていますので、これは先ほど来御指摘になっている、実は正社員とパートの問題もそうなんです。というのは、研究会報告の中で示されたときに、結局、正社員というのは、転勤もするでしょう、拘束性もあるでしょう、責任もあるでしょう、だからパートはと。では、その拘束性とは何なのかということは問わずに来たんですよ。
でも、今おっしゃったように、それが双方とも差別禁止ということの考え方を延長していくと、なぜ正社員という位置づけだから、拘束性だけを一方的に担わなくちゃいけないのかということががらっと転換してくるわけですね。
ですから、ぜひ、今議論されていることをパートの均等待遇、パート法に持ち込んだ場合でも、あくまで検討の中身が何か、今御指摘になったその判断基準がそちらでも問われることになるということで、引き続きお願いしたいと思っております。
■西村(智)委員
最後に1点、酒井参考人に伺いたいと思います。
この間、正社員からパートへの流動化といいますか、雇用の切りかえが非常に進んできた、これはいろいろな数字を見ますと明らかなことであると思いますけれども、酒井参考人は、この均等法の改正に望んでおられること、一番どの点を望んでおられるのか、それを伺いたいと思います。
時々、参議院の中での議事録を見ておったりしますと目にするのは、例えば、コースの転換制度があるから、あるいは、パート、派遣から正社員への転換を導入している企業が少しずつふえているからというようなことなわけでありますけれども、酒井参考人御自身は、この均等法の改正でどの点を望んでおられますか。
■酒井和子参考人(均等待遇アクション21事務局)
先ほどからも雇用の多様化ということが言われておりまして、雇用の多様化の中で、それはほとんどが実態としては女性のパート化ということになっているわけなんですけれども、そうしますと、男性の方から、パートというのは要するに女性が自分から進んでそういうことをやったんじゃないか、納得してやっているんだからいいだろう、そういうことがいろいろなところから言われるんですけれども、でも、実態としてそうではないということはよくわかっているわけですね。
会社から、正社員から無理やりパートに引き下げられるということもありますけれども、例えば、自分の家の中で見てみると、自分はもっと働きたいのに、自分の夫が子育てをしないものだから、結局、自分が子育てをせざるを得なくてパートにならざるを得ない、女性は職場の中にいてもそれから家の中にいても、いろいろな働き続けられない圧力があるわけですね。
そういったときに、では、この均等法が、果たして、自分が正社員でもパートでも、本当に自分のライフスタイルと合わせた働き方を選べるようなそういう法律になっているかといいますと、そこのところが一番やはり欠けております。
そして、これまでの調査でも、1995年に行われた今から10年前のパート労働実態調査の中では、転換制度のある企業は4割あると言っていまして、それ以降ずっとふえていますが、それでも、ふえたといってもまだ4割台なんですね。では、その実態はどうなのかという調査を、なぜか厚生労働省は行っておりません。
ですから、では、本当にパートから正社員になった人たちがどれだけいるのかというと、これは非常に微々たるものでして、先ほどのスーパーの事例の中でもお伝えしましたけれども、例えば、パートの女性が7万人いて、その7万人の中で正社員になった方が80人しかいないとか、あるいは、転換制度はあるけれども事例は1つもないとか。なぜ事例がないのかといいますと、正社員になれということは、要するに裁量労働をやれ、男並みに働けということなんですね。そうしたら、これまでワークライフバランスで、せっかく自分でパートというワークライフバランスを選び取ってきた女性が、またそこで男性の働き方に引き戻されてしまう、それだったらばやはり選べないわという事情があるわけですね。
ですから、そういう意味では、均等法が、本当に今の雇用多様化の中で、パートを選んでも派遣を選んでも、そして正社員を選んでも、どんな働き方をしても、差別をされない、均等待遇が保障されている、そして、1年契約でびくびくしないで、きちんと安定した雇用が保障されている、そういう法律になるように望みたいと思います。
■西村(智)委員
ありがとうございました。
終わります。