■西村智奈美委員
民主党の西村智奈美と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。
教育は国家百年の大計とも言われておりまして、しっかりと議論をして、次の時代を生きる世代をきちんと育て、はぐくむための実りある議論がこの中で行われるということを本当に心から祈念しておりますし、私もその一員としてしっかりと参加してまいりたいと考えております。
いずれにいたしましても、この委員会での議論は始まったばかりでございまして、与党内では70回の議論があったということなんですけれども、いわば国民の目に見える形での議論というのは始まったばかりでございます。この後、逐条的に審議をしていただくことを、ぜひこの委員会で取り組んでいけるようにしていただきたいというふうに思いまして、私は、きょう、文部大臣には初めて質問させていただくということでもありますので、いろいろな考え方などについて聞きながら、そして、この教育基本法の問題にも入っていけたらというふうに思っております。
大臣、ちょっと通告はしていないんですけれども、まず最初に、自由や権利と責任との関係について、大臣はどんなふうにお考えか、お聞かせいただきたいと思うんです。
時々、自由や権利を与え過ぎると、わがままな人間が育ってしまって、好き放題のことをするというふうに考える方がいらっしゃるようなんですけれども、私は、わがままな人間が育たないようにということで仮に自由や権利を制限するというようなことになったら、その人、その子供は、責任を引き受ける、自由や権利と引きかえに責任を引き受けるということがどういうことなのかということを学ぶチャンスを逃してしまうのではないかというふうに思っています。ですので、結局、そういったものを与えなければ子供のままに押しとどめてしまうことになってしまうので、無責任な人間が逆に生まれてくるのではないかというふうに考えるんですけれども、大臣はどのようにお考えでしょうか。
■小坂憲次文部科学大臣
自由と責任というものは常に表裏一体をなすものだと思います。ですから、委員がおっしゃるとおりだと思います。
自由と規律というものも、これも表裏一体であります。自由を主張するときには、その自分のとる行動、自由を主張してとる行動に対して、必ず責任が伴うものであるということ、そして、責任を伴わない自由というものがいわゆるわがままということになって、公共の福祉に反することまでも許されると考えることにつながっていく、こう考えるわけであります。ですので、自由を主張するときには、常に、自分がとったその自由な行動に対して責任が伴うということを自覚してもらうことが必要だ、そういうことであろうとも思っております。
■西村(智)委員
大臣のお考えをお伺いいたしました。
さて、それでは、今回の教育基本法なんですけれども、改正の目的について伺いたいと思います。
提案理由の説明をいただいたんですけれども、私の読み方が、これはどうも改正の目的までなかなか読み取れませんで、立法者の意思というのを改めて確認させていただきたいと思います。つまり、改正、法制定のときには立法事実というものが前提にあるわけなんですけれども、どういう立法事実があってこの法改正を提案されていらっしゃるのか。
教育基本法は理念法だというふうに言われております。ですけれども、今回は大幅な理念の加筆があるわけですので、そこには何らかの科学的な裏づけ、これがあってしかるべきだろうというふうに思いますけれども、目的についてお伺いをいたします。
■小坂大臣
今回の法改正の目的は、たびたび申し上げておりますが、戦後、教育基本法の理念のもとで構築された現在の教育諸制度は、国民の教育水準を向上させ、我が国の社会発展の原動力となってきたという認識を持っているわけでございますが、しかし、教育基本法は、昭和22年に制定をされまして以来半世紀が経過しておりまして、この間に、科学技術の進歩、情報化、国際化、少子高齢化など、我が国の教育をめぐる状況が大きく変化する中で、道徳心や自律心、公共の精神、国際社会の平和と発展への寄与などについて、今後、教育においてより一層重視することが求められている。
また、現象面でいいますと、今日の日本社会が直面している課題として、倫理観や社会的使命感の喪失、少子高齢化による社会の活力の低下、都市化、核家族化等が見られるわけでございますし、また、教育の直面している課題としても、青少年の規範意識や道徳心、自律心の低下、いじめ、不登校、中途退学、学級崩壊、家庭や地域の教育力の低下など、こういった状況も見られることから改正が必要、また、その改正によって、これらの社会現象、社会的な課題または教育の課題について取り組む基本的な基盤を構築したいということでございます。
■西村(智)委員
後段の方は部分的に理解できるところもあるんですけれども、前段のところ、こういう社会状況であるから法改正を行うというところが私にとっては余りよくつながっていっておりません。そのことについてはちょっと後でまた質問したいというふうに思います。
民主党の方は、民主党の日本国教育基本法案について、その目的として、教育現場の問題を具体的に改善するための第一歩として本法案を取りまとめたと明確に述べております。それに比べますと、少し、何といいますか、現状認識とそれから法改正の目的がうまくつながっていない閣法の提案理由であるというふうに私は考えております。
さてそこで、中教審の提言ですけれども、報告の中に、現行法の普遍的な理念は大切にしつつ、7つの理念や原則を明確にすべきであるというふうになっておりまして、7項目出ているわけであります。「信頼される学校教育の確立」から始まりまして、最後は「教育振興基本計画の策定」ということになっておりますけれども、まず、学校教育のことについてお伺いいたしたいと思います。
いじめや不登校、校内暴力、これは日本特有のものではなくて、他の国にも見られる事例であります。他国との比較では、日本のそれらは比較的低い水準にあるのではないかという調査などもいろいろ行われているわけではありますけれども、ただ、現実問題として、依然としてここ数年間目に見えたような減少というのは、なっておりません。それ以外にも、学級崩壊ですとか高校の中途退学者の増加、学力低下などの問題を抱えているわけですけれども、これらの問題は現行の教育基本法の理念に由来するものだというふうに大臣はお考えでしょうか。
■小坂大臣
教育基本法は我が国の教育の根本的な理念や原則を定めたものでございますから、教育基本法の規定それ自体が直ちに現実の諸問題と直結するものではございません。
しかし一方で、教育基本法の制定以来、社会状況が大きく変化をしてまいりまして、教育全般について多くの課題が生じている。そして、これらの課題に対してはこれまでもさまざまな観点から取り組みを重ねてきたわけでございますけれども、その抜本的な解決のためには、学校だけでなく家庭、地域社会を含めて国民全体が協力して、そして教育改革に取り組む必要がある、このように認識をしているわけでございます。
このために、教育の根本を定める教育基本法を改正して、そして、我が国が未来を切り開くための、教育が目指すべき目的や理念を明示することによって、国民の共通理解を図りつつ、もって国民全体による教育改革の欠かせない第一歩となるように願うものであります。
具体的には、新しい教育基本法に明確にされた教育の目的や理念に基づいて、教育全般について見直しを行うとともに、教育施策を総合的かつ計画的に推進するための教育振興基本計画の策定に向けた検討を進めることが重要であろうと考えております。
今回の改正によりまして、今日重要とされている事柄が新しい教育基本法の中に明示されることから、学校を初めとする個別の教育現場においても、具体的な場面においてより充実した指導が行われるものと期待をするところであります。
■西村(智)委員
私がお伺いしたかったのは、そういった学校現場の中でのいろいろな問題は現行の教育基本法の理念などに由来するものかどうか、そういう御認識なのかどうかということなんですけれども、小坂大臣の最初の二行のお答え、由来しないということでよろしいんですね。直接結びつくものではないということでよろしいんですね。
では、そういたしましたら、後半の御答弁の中では、私が聞いておりますと、現行教育基本法がいじめや不登校あるいは校内暴力の原因であるかのようにおっしゃっておられる答弁があるわけでありますけれども、そういった御答弁は今後控えていただけるということでよろしいですね。
■小坂大臣
それは、現行の教育基本法がそういった社会現象や何かの原因として直接結びつくものではないと申し上げたわけです。
ですから、少子化とかグローバル化あるいは核家族化、そういった社会状況の変化の中からいろいろな問題が生じている。それに対処するために、現行の教育基本法で不足な部分についてそれを補充し、また基本的な理念として推進すべきものについては引き継ぎ、それを継承し、そういう中でこの教育基本法の改正を行うということを申し上げているわけでありまして、今日の、現行の教育基本法がこういった問題の原因であるということを申し上げてはないというふうに申し上げただけでございます。
■西村(智)委員
ですので、それでしたら、ほかのことは、余計なといいますか、教育基本法の理念がいじめの原因である、まさにその理念に由来するというふうに私には聞こえる答弁を小坂大臣は今までしてこられたんです。
では、私がちゃんとそういうふうに聞こえるように、これから答弁していただけますでしょうか。
■小坂大臣
そのようなことは一度も申し上げたことはございませんので、もし、そう誤解される面がありましたら、その誤解を解いていただきたい。また、具体的にそういった点がありましたら、御指摘をいただければ御説明を申し上げたいと思います。
■西村(智)委員
それでは、中教審の答申では、「我が国の教育は現在なお多くの課題を抱え、危機的な状況に直面している。」とありますが、危機的な状況というのは具体的にどういう状況でしょうか。
■田中壮一郎政府参考人(文部科学省生涯学習政策局長)
中教審の答申の認識についてのお尋ねでございますので、私の方からお答えさせていただきたいと思います。
中教審の答申の中では、子供たちの道徳心、自立心や学ぶ意欲の低下、あるいは、いじめや不登校、中途退学の増加、家庭や地域の教育力の低下など、教育全般についてさまざまな課題が生じておるわけでございまして、中央教育審議会としては、このままでは社会が立ち行かなくなるのではないかという危機感から、こういう「危機的な状況に直面している。」と指摘したものと受けとめておるところでございます。
■西村(智)委員
ぜひ大臣の御答弁をお願いいたします。
私が政府参考人を登録させていただいたのは、具体的に細かい数字を答えていただくためだと、通告のときにそのように確認をとっていたはずでございます。
委員長、これは注意をしてください。
私は、数字以外のことは政府参考人に答えていただくというつもりはありませんでした。(発言する者あり)では、形式を除いたら何が大事なんですか。形式と中身が大事。心と態度が大事なんですよね。形式は大事だと思います。
さて、小坂大臣、もう一度お願いできますでしょうか。危機的な状況とは具体的にどういう状況でしょうか。
■小坂大臣
中央教育審議会における「危機的な状況に直面している。」という表現でございますが、これにつきましては、戦後60年が経過し、科学技術の進歩、情報化、国際化、少子化など、我が国の教育をめぐる状況が大きく変化したという環境の認識の中で、その中で、子供たちの道徳心、自立心や学ぶ意欲の低下、いじめや不登校、中途退学の増加、家庭や地域の教育力の低下など、教育全般についてさまざまな課題が生じており、中央教育審議会としては、このままでは社会が立ち行かなくなるのではないかとの危機感から、「危機的な状況に直面している。」と指摘したものと受けとめております。
■西村(智)委員
危機的な状況、具体的に余り御説明はなかったと思います。
大臣、よくこの委員会の中で、答弁の中で、子供が親の命を奪うとか、親が子供の命を奪うというような答弁、趣旨のことをおっしゃいますね。私は、とても国会のこの委員会の場で直截的な物の言い方、しかも、この議事録は子供が読む可能性もあります。その中で、そういった直截的な言葉というのは、私はとても発言はできませんが、大臣の認識は恐らくそういうことなんだろうと思います。
現実に起こっていることは、それは私も認識をしております。しかし、子供の心に与える影響というのをぜひ考えていただきたい。日々マスコミから流される事件のニュースで子供たちは胸を痛めております。子供たちに与えられるダメージというのは、これはかなり大きいというふうに思うんですね。どうしてこういう世の中になったんだろうと私も思います。ですが、それが教育基本法の理念とどういう関係にあるかということについては、やはりこれはきちんと分析をしていただいた上で、この委員会の中で発言をしていただきたいと思うものなんです。
こういった少年非行、日本の主要な犯罪、殺人、強盗、これの少年、成年別検挙人員人口比は、欧米の諸国と比べて決して高いとは言えません。少年非行がふえてきたというのは、これは改正の理由にはならないのではないでしょうか。また、先ほどと同じように伺いますけれども、その原因が教育基本法の理念に由来すると認識していらっしゃるのでしょうか。
■小坂大臣
委員は、この委員会の現場において、尊属殺人といいますか、子供が親を殺したり、親が子供をあやめたり、そういった事実を口にすることは教育上いかがなものかという御指摘でございます。
私は、この議論の中で、こういった議事録をお子さんが読まれる、そういう頻度よりも、マスコミの与える影響の方がはるかに大きいと思いますので、ぜひとも委員には、マスコミに対しても同様にそういった意見を表明されることをお願いしたいと思います。
そういう意味で、委員が御指摘になりたい気持ちは理解いたしますが、私といたしましては、委員会の実質的な審議を進める上で、そういった表現が直截的と言われても、理解を求める上で必要であれば今後ともそういう表現は使わせていただきたい、このように思っておりますので、御理解を賜りたいと存じます。
その上で申し上げるわけでございますけれども、現行の教育法の理念に由来する、このような事象が生じることがこの理念に由来すると申し上げたことはないわけでありまして、今日の社会状況を説明するその説明の中で、マスコミの毎日の報道の中に取り上げられ、そして国民が、このような絶対にあってはならないような事件がどうして起こってしまうのか、こういう疑問を胸に持ちながらそういったニュースを見ている状況にある、そういう状況を私なりに説明をさせていただいて、そういったものの解決の中に、国民の皆さんの中にも、今の教育を抜本的に改定していく必要があるんじゃないだろうか、何とかして、いじめとか学級崩壊とか、あるいは登下校時の事故を防止するとか、あるいは親を敬うといった気持ちを持ってもらうような教育というものをどういうふうにしたらいいんだろうか、こういう問題意識を国民の皆さんがお持ちだという、その説明の中で申し上げたつもりでございまして、決して現行の教育法の理念にこのような事件が由来していると申し上げたことはないわけであります。
■西村(智)委員
文部科学省としてマスコミに、こういった事件の報道の仕方について、何かそれでは申し入れなり要望なりを出したことはないんでしょうか。おありですよね。改めてこの委員会の中でそのことを言う必要はないのではないかと私は思います。(小坂国務大臣「御自身が御指摘になればいいじゃないですか」と呼ぶ)私も指摘をしております。それは、責任のなすりつけ合いをしてもしようがないわけで、きちんとみんながやるべきことをやりましょうと。それで、この委員会の中ではきちんとこの法案の審議、科学的な根拠に基づいてしっかりと行っていきたいと私は思っています。
ちょっと話は変わりますけれども、先日、横光委員が質問した答弁について、小坂大臣、これも聞いていただきたい。大臣の答弁ですが、社会状況、いじめや事件などがある日本を是正するにはどうしたらいいんだ、昔の日本の美徳を取り戻すにはどうしたらいいんだ、それは教育ではないか、教育をしっかりさせろ、これを国民の皆さんは強く求めていると思うんですね、それが、今日、この教育基本法を改正せよという国民の大きな期待になっていると私は思いますと答弁されていらっしゃいます。
実際に大臣が思っていらっしゃるようなファクトがあるのかどうか、伺いたいと思います。
大臣のおっしゃっている昔の日本の美徳というのは何でしょうか。また、昔の日本の美徳を取り戻したらいじめや事件がなくせるので改正をしてくださいというような意見は、実数として、パブリックコメントなどもされてきたと思いますけれども、幾つぐらいあったのでしょうか。
■小坂大臣
現在、我が国は、倫理観や社会的使命感の喪失など多くの今日的課題に直面している中で、教育においては、家庭や地域の教育力の低下、また青少年の規範意識や道徳心、自律心の低下、いじめ、不登校など多くの課題を抱えており、また、教育を根本から見直し、今の時代にふさわしい教育の基本理念の確立が求められているという認識を持っております。
このために、教育基本法を改正し、我が国の教育が目指すべき目的や理念を明示することによって国民の共通理解を図りつつ、知徳体の調和のとれた、生涯にわたって自己実現を目指す自立した人間、公共の精神をたっとび、そして国家社会の形成に主体的に参画する日本人、我が国の伝統と文化を基盤として国際社会を生きる日本人の育成を目指して社会全体で教育改革を進めることが必要だと考えておるわけでございますが、私は、こうした教育改革によって社会全体が教育力を取り戻し、こうした人間の育成が図られることを昔の美徳と申し上げたわけであります。
もう少しわかりやすく表現するならば、私どもの子供のころ、近所では、道路に出れば近所の子供もいて、そしてそういう中で長幼の序があり、そしてそのリーダー的、核になる人物がおって、そしてよそからいじめに遭えば、そういうことをおまえやっちゃいかぬぞと、そして人をいじめるようなことがあれば、おまえはそういうことをやったら今度はおれの子分にしてやらないぞというような、子供社会におけるそれぞれの社会教育的な意味でのつき合いというものがありました。
ところが、今日、少子化によって、また、道路に出れば交通が混雑していて危ないという状況で、道路は遊ぶこともできない。また、公園に行っても、最近では公園でボール遊びすら禁止されてしまう。昔は、親子が公園に行ってキャッチボールをして親子としての触れ合いを持ったり、そこに近所の人も来て野球を教えてくれたり、あるいは近所の子供たちが集まって缶けりをして遊んだり隠れんぼうをしたり、そういう中から社会的な触れ合いというものがもっと多くあった。そういう社会が今日失われつつあるのではないか。そういう社会の中で学んできた教育力というものがあったはずなんです。
また、農耕社会の中で、自分のうちの田んぼを一人で田植えするのは大変だと思えば、おらが手伝ってやるよといって近所の皆さんが集まって、結いの精神とかえいっことか言われる精神の中でお互いに助け合って、この協同の作業によって農耕社会というのは維持されてまいりました。そういう協同の心、そしてそういう協同を乱すことに対して、これをしてはならないという規範意識、こういったものが昔はあったわけでございます。そういったものが徐々に欠如してきた。私は、昔の美徳と申し上げた中には、そういった今日的に失われつつある日本の伝統の文化、社会の組織、そして社会の教育力といったものを総体的に日本の美徳と申し上げたわけでございます。
■田中参考人
中央教育審議会におきましては、平成14年3月から国民から各種意見を募集しておるところでございますが、特に平成14年11月15日から12月15日までの1月間はパブリックコメント、中間報告に対するパブリックコメントを求めたところでございます。その後も国民の意見を募集しておりまして、平成15年9月までに参りました国民の御意見が1万千件余りございまして、この段階で分析したところでございますけれども、大臣が御説明申し上げました、日本の美徳を取り戻すといった趣旨の御意見は百数十件あったところでございます。
■西村(智)委員
1万7千件の意見の中で百数十通が大臣と同じ意見、1%弱ですね。
大臣、ぜひ正確に言っていただきたいと思うんです。私も、今大臣がおっしゃった中で共感できる部分がないわけではありません。ただ、そこが、国民の皆さん全体の意見である、大きな期待だ、国民全員があたかも同じように思っているというふうに聞こえる御答弁はぜひ避けていただきたい。それは、世論のいわばつくり上げになると思います。
それで、ちょっと伺いたいんですけれども、美徳と言われまして私の頭の中に浮かびましたのは、謙譲の美徳という言葉でございます。大臣は、長幼の序ですとか協同の心とかいろいろなことをおっしゃいましたけれども、私は謙譲の美徳というのが浮かんだんですね。
謙譲の美徳は、万事に控え目で他人に譲ることということなんですけれども、それを具体化してまいりますと、つまり、今回の教育基本法の理念、あるいは中教審の中では「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成」と書いてあります。グローバル化が進んで競争社会が激烈になってくるこの世界の中で、そういったところで生き残っていく日本人ということになりますと、他人に譲っていては勝ち残っていけないということになりませんか。
■小坂大臣
ちょっと私の理解が悪いのかもしれませんが、委員は、謙譲の美徳が日本の美徳の中でも特筆すべきものだというふうに御説明をおっしゃったように思うんですが、それに対して今おっしゃったことは、国際競争の中で譲っていてはだめだ、すなわち、謙譲の美徳というのは、今日、余りそういうことを考えていては国際社会で生きられないということについて御質問いただいたんでしょうか。その点について、もう1度御質問いただければありがたいんですが。
また、先ほどの局長の説明の中で1つ欠けておると思うのは、パブリックコメントの中で、読売新聞による世論調査というのがありまして、他人への思いやりや道徳心、公共心など心の教育を行うことに特に力を入れてほしいとされる方が58.3%、友達づき合いや目上の人との接し方を身につけること、これが39.3%。いずれもこれは無視しがたい数字だと思っております。
また、他の調査を見ましても同等の表現というのはあるわけでございまして、むしろ、委員が否定をされる、そういった一部の意見を大臣があたかも国民の期待であるかのごとく表現することはいかがなものかという御指摘でございますが、私は、今申し上げたような、そういった意見を初めとして、いろいろな会合等でも表明される多くの方々の意見を参考にしております。
多分、委員も、それは一部の意見だとおっしゃっている根拠は、委員御自身の活動の範囲内において聞かれる御意見が私の意見とは違うということで表現をされているものと思うわけでございまして、そういった意味では、私は、あくまでも私個人の意見として答弁をしているわけではないわけでありまして、文部科学省の全体の考え方、そしてまた小泉政権の政府の考え方全体の中で大臣として答弁を申し上げ、その中で個人的な意見を申し上げるときには、個人的な見解になるかもしれませんがと申し上げているつもりでございますので、よろしく御理解を賜りたいと思います。
■西村(智)委員
私は、自分なりに幅広く意見を聞いておるつもりでございます。数えてはいませんけれども、いろいろな意見をおっしゃる方、それはいらっしゃいます。大臣、私も議員の職にありますので、そこは幅広く意見を聞く活動というのはやらせていただいております。
それで、私の質問は、どうなんですかと、長幼の序とか……(発言する者あり)揚げ足ではなくて、これは教育論の本質だと思いますけれども。長幼の序、謙譲というようなことというのは、和をとうとぶということでありますよね。ですけれども、現実の国際社会は、やはりのし上がっていっているのはタフネゴシエーターで、他人を押しのけて勝ち上がっていく人たちですよ。どういう整理をなさっているんですか、大臣。
■小坂大臣
質問の趣旨が若干理解しがたい部分がありまして……。私は、長幼の序というのは大切でありますし、謙譲の美徳も大切であります。これは、日本人の美徳の中でも謙譲の美徳というのは、委員がおっしゃるように重要な部分であると思います。しかし、それが今日的な国際社会の中で、そのバランスをどのようにとっていくかというのはやはり1つの課題だと思います。
謙譲の美徳はやはり維持されるべきと思いますけれども、時と場合によっては、謙譲ばかりではなくて、主張することによって理解を求めるということも必要な社会になったという認識は持っております。したがって、アイデンティティーを持って、国際社会において日本というものを背景として、日本人としての主張をして、それを理解される努力をすることは今日では大変重要なことだ、このように理解もいたしております。
■西村(智)委員
それでは、格差の方に移っていきたいと思うんですけれども、時間がなくなってきました。
読売新聞社の教育に関する全国世論調査、これは何人もの方が取り上げていらっしゃることですけれども、親の経済力の差によって子供の学力格差も広がっていると感じている人が75%に上っております。実際に、いろいろな調査がありまして、保護者の経済力や地域の経済水準と子供の学力というのは相関するという結果が出てきております。結果として、これは学校や地域の選別競争がそろそろ始まっているのではないか、これは教育機会の制度的な差別化につながっているのではないかというふうに思うんですけれども、大臣の見解を伺いたいと思います。
■小坂大臣
読売新聞の5月28日付の記事がございますが、「学力の差 「親の所得が影響」75%」、このような表現も使われておりまして、委員が参照されました読売新聞の教育に関する全国世論調査によりますと、国民の意識として、家庭の経済力によって子供の学力格差が広がっているとの認識があることは承知をいたしております。
家庭や地域の経済力にかかわらず、すべての児童生徒が確かな学力をはぐくむことは学校教育の責任であるという認識を持っておるわけでございますが、このために、義務教育費の国庫負担制度によりまして、地方公共団体の財政力の差にかかわらず、全国のすべての地域においてすぐれた教職員を一定数確保することができるようにしているとともに、習熟度別あるいは少人数指導あるいは補充的な、発展的な指導など、個に応じた指導の充実に努めております。
また、学習意欲の向上、教員の指導力の向上なども含めまして、確かな学力の向上のための総合的な施策、学力向上アクションプランを推進いたしているところでございます。家庭や地域の経済状況などにかかわらずに、すべての児童生徒に対して確かな学力がしっかり身につくように、今後とも努めてまいりたいと考えております。
■西村(智)委員
現実には、この格差競争といいますか、教育機会をめぐる競争というのはかなり激しくなってきているというふうに思うんです。
大臣は、一定の相関が出てきているということをお認めになった上で、その上で文科省として適切な対応をとるべく努めているというふうに答弁されたんだと思いますけれども、ただ、現実はそれを上回る勢いで私は進んでいっているのではないかと思います。
既に言われていることですけれども、学力の低い学校はよい学校ではないですとか、あるいは経済力と学力が相関にあるという図式がこれからさらに固定化していくおそれがあるのではないかということを私は懸念していますし、また一方で、学習塾に通う子供がどんどん低年齢化している、あるいは、いい学校のある地域にマンションが次々と建っているというような報告もありますね。
チャレンジしたいんだけれども、もうスタートの時点でチャレンジする機会すらなくなってきている、こういう層が生まれてくる。一方で、もう生まれたときからいい学校に近いマンションに住んでいる子供もいるわけでして、大臣、これで果たしてよろしいんでしょうか。大臣はどんなふうにお考えですか。
■小坂大臣
今も答弁させていただきましたように、委員が御指摘のように、経済的な格差がすなわち機会を喪失するようなことにつながるということはやはり避けるべきだと思っております。
初等中等教育段階においては、すべての子供に基礎、基本をしっかりと身につけさせて、それを基盤として、子供一人一人の個性を伸ばすことが重要だと考えております。こういう中で、小学校に通う児童の中に、学習塾に通う、そして補習的な、補充的な授業を得たり、あるいは少し先の予習をしたりということで学力を伸ばす努力をしている。ところが、経済的な事情によって学習塾に通うことすらできない、こういうことが生じることは、私としても避けなければならないという認識を持っております。
そういう意味で、子供の居場所づくりという形で、今日、共稼ぎ世帯が多くなっている中で、家へ帰っても両親がいないというような状況の一人っ子の政策のために、それを補充するために学校で残ることができるような、そういう居場所をつくるという事業も進めているわけでございます。ここに、退職教員の皆さんに御協力をいただいてボランティアとして来ていただいて、学びの居場所という、仮称でございますが、こういった施策も19年度から導入をしてまいりたいということで、現在、19年度予算に反映すべく企画もいたしているところでございます。
このような認識に立って、そういった状況を解消するような努力は私もこれからもしてまいりたいと存じますが、基礎、基本を十分に理解している子供に対する発展的な学習を含めた習熟度別の指導、こういったものを通じて、基礎的な学力はしっかりと身につけさせる中で、また、その中で学習意欲のある子供に対してはしっかりとその学習が伸びるような支援も行ってまいりたいと存じます。
■西村(智)委員
先ほど大臣、格差が広がってきているという御認識をお示しいただきました。
安倍官房長官、時間がない中でお残りをいただきまして済みません。
安倍官房長官は、今、日本の社会の中には格差はないという御認識でしょうか、伺います。
■安倍晋三内閣官房長官
差がない社会はあり得ない、このように考えております。もし問題があるとすると、格差が広がっているかどうかということではないかと思います。
格差の広がりについては、政府としては格差が拡大をしているというふうには認識はしていないわけでありますが、しかし、ニート、フリーターの増加等から見れば、将来の格差の拡大については懸念があるわけであります。また、地域間において格差を感じている人たちがいるとすれば、そういう人たちに対して勇気を与えていくことも政治としては大きな使命ではないか、私はこのように思うわけであります。
格差というのは常に存在するわけでありまして、頑張った人とそうでない人に差ができるのは、これはみんな人間は当然だと思っている。しかし、その格差が許容できる範囲かどうか、あるいはまた、その格差はフェアな競争の結果かどうか。フェアでない、公正でない結果であれば、それは当然問題である、このように認識をしております。
■西村(智)委員
先ほど小坂大臣は、教育の中で格差があるとおっしゃったと思うんですけれども、大臣は、広がってくるとすれば問題だという御答弁でした。
再チャレンジ推進計画、それではどういう御認識でつくられたのか。これを見ますと、私の読み方ですけれども、つまずいた人に対して再チャレンジする機会を与えるということなんですけれども、そうしますと、例えば全国でフリーター、もう2百万人ほどいられるというふうに聞いておりますし、あるいは派遣の人たちの対象プログラムもあるわけですけれども、合わせますと4百万人ぐらい。そうすると、日本全国、あちこち、つまずいた人たちがごろごろと転がっているということになるわけですね。
私は、ここはやはり政府は格差があるということをまず認めて、そういった認識でこの再チャレンジ推進計画、改めて大臣の、まあ先ほど、格差が教育の中ではあるということも示されました。新卒者の対象プログラムがこの再チャレンジ推進会議の中では示されておりません。ただ1つありましたのは、新卒の学卒者で就職氷河期にあった人たちだけが対象だということなんですね。就職氷河期なんですね。
そういたしますと、スタートラインではみんなすべて同じラインに立っているという前提なんだと思うんですけれども、実際には、もう既に始まるところから格差は生じてきている。学習機会の格差、保護者や家庭や地域の経済力、経済水準の格差、これがみんな連動しているというふうに考えますと、そこのところは認識を改めていただきたいと思いますけれども、もし大臣、官房長官、何かあれば、伺います。
■安倍官房長官
格差がない社会はないということについては
御理解をいただいたのではないか、このように思います。
私が今進めております再チャレンジにつきましては、私ども小泉内閣が進めている改革というのは、頑張った人や汗を流した人や知恵を出した人が報われる社会をつくっていく。それは公正、フェアな競争の結果でなければならない。その活力が経済を押し上げ、そして日本の国力を高めていく。しかし、その結果、負け組、勝ち組として固定化させたり、あるいはそれが階級化してはならない。だれにでも、何回も挑戦できる、チャレンジできる社会をつくっていきたいという中において、暮らし方や学び方やあるいは働き方において複線化をしていくことが必要ではないだろうか。そして、再チャレンジに挑んでいる人たちを支援していく、個別にしっかりと政策を組んでいこうということであります。
先ほど就職氷河期の御指摘がありましたが、新卒の方だけではなくて、いわば年齢制限等々をなるべく外して、特にニート、フリーターとなった方々は就職氷河期の方々に偏っているというところもありますから、そういう人たちに新卒者と同じように会社に就職できるチャンスはないだろうか、まず公務員から始めようということにおいて、公務員第3種においてその枠をつくっていくということにもなったわけでございます。
これは、広く多様な生き方を許容できる社会にしていくという発想の転換をするために考え方を変える。と同時に、そういう方々にしっかりと支援をしていきたい。就職についても、そういう政策もしっかりと盛り込んでおりますので、よく見ていただきたい、このように思います。
■小坂大臣
委員の御質問が、学力格差から就職の、ニート、フリーターの問題にまで広がっているわけでございますが、まず、学力格差の点で、先ほど申し上げた背景を1つ申し上げておかなければいけないと思います。
保護者の学歴や職業、いわゆる経済力によって子供に学力の格差が生じるかということについて、保護者の学歴や職業が子供の得点に与える影響というものをOECDが調査をいたしております。このOECDのPISA2003年の調査によりますと、ヨーロッパ諸国、またOECDの平均では20.3でございますけれども、日本は11.6ポイントという形で、OECD平均から見ますと、そういった影響は日本は少ない国だと見られているということも1つ参考にさせていただき、また、学力の格差については、先ほど申し上げたような習熟度別の指導等によりまして、その格差の縮小に努めているということでございまして、拡大をさせないという努力をしているということを申し上げたことを御理解いただきたいと思います。
■西村(智)委員
OECDの調査報告でもありましたとおり、日本は、所得の格差が学力の格差に比較的連動の弱い国なんですね。ですけれども、それは今まで、いわゆる学校や家庭や地域や、それぞれが本当に現場で頑張ってきた成果だということは大臣もお認めになってくださるんだと思います。
私たちは、この教育基本法、やはりスタートラインからの、格差をなくす、教育機会は平等にということから民主党の提案もさせていただいておりますので、きっちりとそういった考え方は対比させていただきながら、これからまた、もっと時間をかけて議論させていただきたいと思います。
済みません、延びました。ありがとうございます。