■西村智奈美議員
民主党の西村智奈美です。
私は、ただいま議題となりました二法案に関し、民主党・無所属クラブを代表して質問をいたします。(拍手)
さきの総選挙で当選して四カ月。初めて国会で政策決定過程に係る議論に加わり、緊張感と興奮の毎日です。この間、改めて感じたのは、この国の東京一極集中は想像以上の凝集性を持っていたということであります。
地方分権とは、もともと地域にあった主権を地域に返す作業だと私は思います。水平的な地方と国との関係を構築し、自主自立の町づくりを行う環境を整えることが、私の議員としての大きな目標の一つです。きょうも、そのような問題意識の下で質問をさせていただきます。(拍手)
今回提出された法案は、平成十七年三月までに都道府県に合併の申請をし、平成十八年までに合併を行う市町村を対象とした現行の合併特例法の一年延長と、現行合併特例法後の五年間、さらなる合併を促進するため所要の措置を講ずる合併特例新法の二本です。
各論に入る前に、総論的かつ基本的な質問から始めさせていただきます。
私は、この二本の法案を読めば読むほど首をかしげることばかりでしたが、行間から確実に伝わってくることが一つだけありました。それは、何が何でも合併を進めさせようという国の姿勢であります。しかし、そもそもなぜ市町村合併を推進しなければならないのかという肝心かなめの理由が伝わってまいりません。総理はもちろん、政府のだれ一人として明確にその理由を述べていないからであります。
例えば、明治の大合併は小学校の設置、管理のために三百から五百戸を最低基準の目標とし、昭和の大合併は新制中学校を整備するために人口を八千人以上にしようと決めて進められたといいます。しからば、今回の合併推進に当たっては、いかなる目的のために、いかほどの人口規模を目標として進めるつもりなのでしょうか。
地方制度調査会は総理の諮問を受けて設置され、その答申の内容が今回の立法にも随分反映をされています。また、いわゆる小泉マニフェストでも、市町村合併を促進すると高らかに掲げているではありませんか。
地方分権にかかわる大原則ですから、官房長官に質問をいたします。地方行財政の受け皿論はもう結構でございます。具体的にお答えください。(拍手)
以下、法案の問題点について、具体的な質問に移ります。
まず、合併特例債に関連して質問します。
私の地元、新潟県では、県内百一の市町村のうち八十四市町村が合併に向けた取り組みを行っており、仮にすべての協議が成就すれば、市町村数は三十五に集約をされることになります。その場合、合計して二十の合併自治体に合併特例債の発行が可能となり、限度額は最高で五千百六十億円と試算をされているそうです。これが全部発行されると、国の交付税措置分は七割で、約三千六百億円。これは新潟県の分だけの数字です。しかも、地方の負担は三割で済むとはいえ、不要不急の公共事業に化けるケースも多々あり、その場合、地方はむだな建物のための債務の返済に苦しむことになります。
民主党は、現在の合併特例債のように後年度負担が大きくなるような措置を縮小するように主張してまいりました。新法では、政府も合併特例債を廃止する方針を打ち出し、合併特例債の問題点をようやく理解したのだというふうに思いたいのですが、その割には、現行法の延長ということで、この特例債の制度も一年間存続することになっております。
そこで、質問です。総務大臣は、この合併特例債の制度についてどのように総括をしていらっしゃるのでしょうか。また、現在、合併協議会が設立されているすべての自治体で合併が成立した場合、合併特例債の発行可能枠は最大幾らになるのでしょうか。非常に大事な数字ですので、幾つかの仮定を置いても結構です。逃げずにお答えください。(拍手)
次に、市町村合併後、旧議員の任期を最長二年延長する在任特例についてお尋ねをいたします。
現行合併特例法で創設されたこの規定に基づき、各地にマンモス議会が生まれ、議員の保身や財政面での非効率など、さまざまな問題点が指摘をされています。にもかかわらず、この在任特例の規定が新法においても引き続き残っているのを知って、私は唖然といたしました。
新潟市では、平成十七年三月の合併で編入される市町村の議員全員が辞職をするという大英断を行い、住民から大喝采を浴びました。政府は、議員の顔色ばかりうかがって、住民の気持ちを考えていないようですが、政府がわざわざ在任特例などを用意しなくても、やればできるのです。在任特例が残った理由を総務大臣に伺います。
次は、市町村合併の進め方というテーマに沿いながら、主に合併特例新法について質問をいたします。
法案では、都道府県知事が構想に基づき、市町村合併調整委員を任命し、あっせん、調停を行わせることができるとともに、合併協議会の設置を勧告することができる、また、勧告を受けた市町村長が合併協議会を議会に諮った結果、議会が否決したときには、住民が六分の一以上の有権者の署名により、または市町村長が住民投票を請求することができる、さらに、合併推進に関して勧告ができるとしています。合併を強制的に進めたいのだけれども、批判が怖くて、回りくどい方法を考えたものだなというのが私の第一印象です。
そこで、総務大臣に伺います。
合併新法は、国が県に対して合併の旗振り役を押しつける側面が大変に強くなっていると思いますが、合併は市町村が自主的に行うというこれまでの基本的な考え方を変更したのでしょうか。また、このことは、県と市町村は対等、協力の関係で地方行政を担うとされる地方分権の理念に沿わないやり方だと思いますが、いかがでしょうか。お答えください。
次に、より具体的に、都道府県知事の構想の前提となる総務大臣の基本方針について質問します。
まず、この基本方針にはどのような内容を盛り込むのか。特に、市町村の適正規模について、一万人という数字を示すことになるのでしょうか。総務大臣に伺います。
また、基本方針の内容を法律で規定せず、事実上総務大臣の裁量とした理由についても伺います。
さらに、基本方針に基づいて知事が構想を策定するということですが、その構想の内容などは知事それぞれの自由裁量にゆだねられるのかどうか、伺います。
今回の質問に当たって、私は、現在、合併を選択しない、取り組みの動きがない市町村の実情について少し調べてみました。その結果、浮かび上がってきた実像は、以下のとおりです。
住民意向調査や住民投票で合併反対が多数となり、民意として合併せずに単独で行くとの選択を行ったケース、合併を志向するものの、合併先をめぐって住民の意向が対立し協議に入れないケース、あるいは、さまざまな理由から希望する相手先の市町村から断られたケース、議会と住民の意向が異なり協議に入れないケースなど、市町村、住民とも何らかの取り組みや対応を経て、一定の結論に至っているという実像でございます。
このような状況の下で、新法の制度による合併が進むのか否か、私は疑問に思っています。それとも、知事の構想や勧告に強制力を想定しているのでしょうか。総務大臣の見解をお尋ねします。
地方自治法の改正案を含めた今回の合併三法について、私は、市町村合併の全体像、将来像や、合併の基準が全く見えてこないという感想を持っています。それに関連して、総務大臣に二点質問をいたします。
第一に、合併後の基礎自治体の数として、幾つを目標にしているのでしょうか。与党は千自治体を目標としたそうですが、政府も同様に、千という数を目標としているのですか。
第二に、合併新法の五年という期限が過ぎた後、合併しないことを選択した人口一万未満の自治体はどうなるのでしょうか。基礎自治体のあり方として、規模が小さく、財政的にも厳しく、住民の負担が高くなる、あるいはサービスの提供に制約が生じても、住民が納得の上で単独の選択をした自治体を認めるのでしょうか。それとも逆に、ナショナルミニマムの水準維持のためには、このような団体の存在は認めず、強制的な合併や、第二十七次地方制度調査会の答申で言うところの特例的団体の制度を五年後に導入する可能性はあるのでしょうか。
合併推進は、新旧の合併特例法によってのみ進められるのではありません。建前は自主的な合併と言いながら、実際には、交付税の小規模団体に対する段階補正の見直しなどの方法で、財政力の弱い市町村に合併を迫るという構図も最近は明らかになっています。
それだけではありません。税源移譲を中途半端なままに補助金の削減と交付税の削減を進める小泉内閣の名ばかりの三位一体改革によって、わらにもすがる思いで合併特例債などのあめに飛びつかざるを得ない情勢も見られ、これは、私は、間接的な強制合併に等しいと思います。(拍手)
市町村にとって、今後の地方交付税と補助金及びそれに伴うはずの税源移譲の動向が合併の進展を大きく左右します。その意味でも、いわゆる三位一体改革の将来像を明示すべきだと考えます。総務大臣の見解を示してください。
私は、地方分権とは、市民が地域の政府をきちんとコントロールできる仕組みをつくることだと思っています。その点で、政府の合併の進め方について一番危惧をされるのは、何のための合併かを詰めないまま、住民を蚊帳の外に置いたまま、だれも全体像を描くことなく、なし崩し的に合併論議が進められていることです。
冒頭述べましたように、本院の議員となってまだ日が浅い私ですが、身にしみてわかったことは、東京の一極集中ぶりだけではございません。いわゆる小泉改革なるものの実像が、理念なきがゆえに具体的な内容も欠いているということです。(拍手)もちろん、地方にいたときも薄々感じてはいましたが、今なお、はっきりといたしました。道路公団改革しかり、年金改革しかり、郵貯改革しかり、三位一体改革しかり、そして、この市町村合併への取り組みもまたしかりであります。自治の主役は住民であり、合併を決める主役もまた住民であるという基本的な理念を忘れ去っているのではありませんか。(拍手)
最後にこのことを申し上げ、小泉内閣と与党に対して猛省を迫りつつ、私の質問を終わります。ありがとうございました。(拍手)
〔福田康夫内閣官房長官登壇〕
■福田康夫内閣官房長官
西村議員から、合併推進の目的についてお尋ねがございました。
第二十七次地方制度調査会の答申では、地方分権の推進の観点から、市町村の規模、能力の充実を図ることが必要であり、合併新法で都道府県が策定する市町村合併の推進に関する構想の対象となる小規模な市町村として、人口おおむね一万未満を目安とし、その際地理的条件等も考慮すべきこととされております。
この答申を踏まえて、今後とも、自主的な市町村の合併を推進してまいります。(拍手)
〔麻生太郎総務大臣登壇〕
■麻生太郎総務大臣
西村先生から七問ちょうだいをいたしております。
まず最初に、合併特例債についてのお尋ねがあっております。
合併特例債は、旧市町村をつなぐ道路整備など、合併後の市町村の一体性の確立や均衡ある発展のために必要な社会基盤を整備するためのものであります。この特例債は、各地の実情に応じ活用されておりまして、合併の推進に役立っているものと考えております。
合併特例債の発行額につきましては、平成十一年度からこれまで約九百十億円となっております。現時点におきまして、最終的な合併市町村の見通しが立っておりませんから、合併特例債の発行総額の試算は、目下のところ困難であります。
次に、市町村議会議員の在任特例に関するお尋ねがありました。
合併新法におきましては、現行法と同様に、市町村議会の議員につきまして、合併直後の一定期間引き続き在任することができる特例を想定いたしております。この在任特例につきましては、合併の障害を除去する上で必要な制度と考えております。
ただし、この在任特例をどのように適用するかにつきましては、住民の意向も十分に踏まえ、関係市町村間で協議の上、決定されるべきものであると考えております。
次に、合併新法における都道府県の役割についてのお尋ねがありました。
合併新法におきましても、自主的な市町村合併を推進する点につきましては、現行の合併特例法と変わりはございません。また、都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、合併新法におきましても、自主的な市町村合併を推進するために必要な役割を果たしていただくことを期待いたしております。
また、総務大臣が策定する基本方針についてのお尋ねがあっております。
総務大臣の定めます基本方針は、第二十七次地方制度調査会の答申を踏まえまして、都道府県が策定をいたします構想の対象となる小規模の市町村として、人口おおむね一万未満を目安とし、その際地理的条件等も考慮することなどを記述するということを考えております。また、市町村合併の状況を見きわめる必要があること等から、総務大臣が定めるものといたしております。
都道府県が定める構想は、この総務大臣が定める基本方針に基づいて策定するものといたしております。
また、知事が策定する構想や勧告によって市町村合併を強制するという考え方は全くとっておりません。
次に、基礎自治体の目標数についてのお尋ねがありました。
平成十二年十二月一日に閣議決定した行政改革大綱では、与党行財政改革推進協議会における「市町村合併後の自治体数を千を目標とする」という方針を踏まえて、自主的な市町村合併を積極的に推進することといたしておりまして、政府といたしましては、引き続きこの方針に基づき対応することといたしております。
合併新法期限後の小規模な市町村についてのお尋ねがありました。
合併新法によりまして、平成二十二年三月までに市町村合併が推進されたとしても、なお小規模な市町村というものは存在すると予想いたしております。
第二十七次地方制度調査会答申では、そのような市町村につきましては、法令上義務づけられた事務については窓口サービス等その一部のみを処理し、都道府県にそれ以外の事務の処理を義務づける特例的団体の制度の導入についても引き続き検討する必要があるとしておるところでありまして、この制度につきまして引き続き検討いたしてまいりたいと思います。
最後に、市町村合併につきまして、三位一体改革の将来像というものを明らかにすべきとの御指摘がありました。
三位一体の改革につきましては、昨年六月に閣議決定した基本方針二〇〇三におきまして、四兆円の国庫補助負担金の改革、基幹税を基本とした税源の移譲、国税から地方税、そして三番目に地方交付税の見直しなど、平成十八年度までに取り組む方針を明らかにいたしております。
このように、地方団体にも、ある程度先行きが見通せることをお示ししているところでもあり、今後、地方団体に対する情報提供や意見交換にこれまで以上に意を用いるのは当然として、できる限り改革の全体像を明らかにするという方針で今後とも改革を進めてまいりたいと存じます。(拍手)